研究課題/領域番号 |
19K09314
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
木村 亨 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 呼吸器外科副部長 (90580796)
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研究分担者 |
舟木 壮一郎 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (50464251)
新谷 康 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (90572983)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肺線維症 / 間質性肺炎 / 肺癌 / 癌関連線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
肺線維症・間質性肺炎は診断後の平均生存期間が2.5~5年間という予後不良な難治性・進行性の疾患で、有効な治療法がないのが現状である。また、経過中に感冒などを契機として急激に病状が進行する急性増悪を来した場合、その平均生存期間は2ヶ月以内とされる。さらに、これらの疾患に高率に合併する肺癌もまた、日本における癌死亡の第1位を占める予後不良な疾患である。間質性肺炎を合併した肺癌の手術療法については、急性増悪を含む合併症の頻度が高く、また術後再発のリスクが高いことも知られており、肺癌の重要な予後不良因子の一つである。術後に発症する間質性肺炎の急性増悪は、胸部外科領域の術後合併症の中でも、特に致死率が高く、日本呼吸外科学会学術委員会にて臨床的側面からの調査・解析結果が報告され、注目されている。 肺線維症や間質性肺炎は、肺間質と呼ばれる肺胞隔壁を炎症・線維化病変の場とする疾患で、その病態において線維芽細胞は、増殖因子や炎症性サイトカイン、細胞外基質を産生し、炎症・線維化の進行に重要な役割を果たすとされている。また、癌組織は癌細胞と癌間質とから成り、癌間質は、線維芽細胞、血管内皮細胞、マクロファージやリンパ球などの炎症細胞から構成される。申請者はこれまで、活性化した線維芽細胞に発現するFibroblast Activation Protein (FAP) に注目して、肺線維症モデルマウス等を用いた基礎研究を進めてきた。 申請者らは、線維化過程にある肺組織と癌組織の間の表現型の相違に、組織中のFAP陽性線維芽細胞の動向が関与すると考え、臨床検体における肺組織および癌組織中のFAP陽性細胞と臨床所見・予後との相関を明らかにすること目的として本研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当センターにおける間質性肺炎合併肺癌切除症例を、当科肺癌手術症例データベースから集積した。これらの症例について、詳細な臨床データを収集、解析を行った。まず、術前CT画像と切除検体組織像の比較検討を行い、腫瘍の背景となる肺の炎症・線維化巣の有無により、肺癌の組織型が異なることを明らかにし、炎症や線維化巣を背景とする肺癌組織では、病理学的な胸膜浸潤、リンパ管・血管浸潤が多い傾向を認めた。再発までの期間は他の肺癌症例に比して短く、また間質性肺炎を背景とした肺に新規病変を認める症例も多かった。間質性肺炎を合併していることは、再発や新規病変発生の際の治療方針にも影響を与えており、術後再発や第2癌による予後不良例が多いことを確認した。さらに、間質性肺炎合併肺癌術後では肺機能の影響から縮小手術の選択を余儀なくされることが少なくないが、縮小手術例において予後不良で、その理由として肺疾患より腫瘍学的な影響が大きいことが判った。術後経過フォロー中、画像でのIP悪化傾向を約半数に認め、非癌死も約1割に認めたことから、呼吸状態の悪化が予後に影響する症例も散見した。これらの症例について、切除検体から肺癌原発巣と背景肺の詳細な病理学的検討を行い、間質性肺炎や癌の悪性度の評価を行った。まず背景肺においては、線維芽細胞巣が多い症例で呼吸機能低下や急性増悪などが多い傾向を認めた。これらの肺癌手術検体を用いた組織学的評価については、FAPを含めた各種免疫染色結果を含めて論文作成中である。 米国ペンシルバニア大学の協力で入手した、FAPを標的としたマウスのChimeric Antigen Receptor (CAR)-T細胞の作製に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに実施してきた、間質性肺炎合併肺癌症例の肺癌および背景肺組織の免疫染色結果を病理医と、すでに集積を終えている膨大な臨床データの中で、画像所見については放射線科医と共に解析し、FAP陽性線維芽細胞の有無や局在と、腫瘍の悪性度や間質性肺炎の経時的変化について解析し、論文化へ進む。 臨床検体の免疫染色を用いた評価と臨床データとの解析を進めながら、FAP陽性線維芽細胞を標的とするCAR-T細胞を用いた動物実験を並行して進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は多数の症例およびスライドに関して各種免疫染色を施行したが、前年度から繰り越しがあったことから、次年度使用額が生じた。次年度は、「今後の研究の推進方策」に記載の通り、さらなる免疫染色の継続に加えて、動物由来の細胞や各種遺伝子組み換え実験等を開始することから、相当額の費用を要するものと予想される。
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