研究課題/領域番号 |
19K09316
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
神田 浩嗣 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (00550641)
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研究分担者 |
神田 恵 旭川医科大学, 医学部, 講師 (50516820)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 疼痛 / 遺伝子治療 / ウイルスベクター / GABA / 遺伝子導入 |
研究実績の概要 |
本研究では、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)67を発現させ脊髄後角のγ-アミノ酪酸 (GABA) 合成を促進するヘルペスウイルスベクターを用いた遺伝子治療の有用性を明らかにし、その鎮痛機序を解明することを目的とした。2019年度には、1.神経障害性疼痛モデルの作成と動物行動評価、2.ウイルスベクターを用いた遺伝子治療による鎮痛効果、3.GABA受容体アンタゴニストの末梢投与による疼痛閾値への影響を調査した。具体的には、ラットの疼痛モデルを作成し、機械刺激性アロディニアが発症することを確認した。次に、この疼痛モデルに、治療用ヘルペスウイルスベクターとコントロールベクターを皮下接種により投与し、それによって機械刺激性アロディニアが抑制されるという結果を得た。さらに、ウイルスベクターを投与して疼痛が抑制された疼痛モデルラットにGABA 受容体アンタゴニストを投与すると、一時的に疼痛閾値が低下し、ウイルスベクターの鎮痛コカが阻害されることを確認した。GABA受容体アンタゴニストの投与は足底部への皮下接種により行った。以上より、GABA合成を促進するヘルペスウイルスベクターを用いた遺伝子治療の有用性を示すとともに、その鎮痛機序を一部解明しつつあると考えている。 神経障害性疼痛は難治性の疼痛であり、その発症のメカニズムは未だ解明されておらず、有効な治療法は確立されていないため、新しい治療法の開発は急務である。このような背景と、我々のこれまでの研究成果と本研究で得られた知見より、ウイルスベクターによる遺伝子治療を用いた慢性疼痛治療の臨床応用へ向けた一助となると見込んでいる。 痛みの遺伝子治療が現存の治療の選択肢の一つに加えることが出来れば、慢性疼痛患者が多く存在する本邦において、患者QOL(生活の質)の改善と医療費削減、生産性の向上などが期待できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラット疼痛モデルにGAD67を発現するウイルスベクターを投与すると、神経障害性疼痛が緩和されることを確認した。その鎮痛メカニズムには、脊髄後角/DRGのGAD67が増加してGABA合成が促進すること、脊髄後角のTNF-α放出が抑制されることが関与すること、ウイルスベクターを投与した疼痛モデルにGABA受容体アンタゴニストを足底部に注入すると、疼痛閾値が低下し鎮痛効果が抑制されることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究をさらに進めるため、今まで我々が用いてきた病原性を有するヘルペスウイルスを用いたウイルスベクターに替え、病原性のないアデノ随伴ウイルスを用いてGAD67 を発現するウイルスベクターの作製に取り組んでいる。既に作製したアデノ随伴ウイルスベクターの機能評価を細胞レベルより始めており、現在は細胞実験と並行して動物実験レベルで評価を始める段階に来ている。より安全で確実な遺伝子導入による痛みの治療法の確立を目指し、将来的には痛みの遺伝子治療の臨床応用に向けて引き続き本研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウイルスベクターの作製ならびに、作製したベクターの機能評価を細胞レベルと動物レベルで行うため、試薬、ウイルスベクター作成キット、消耗品、実験動物(ラット)購入・飼育費などに充てる。
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