神経障害性疼痛を緩和するウイルスベクターを用いた遺伝子治療の効果とそのメカニズム解明に関する本研究により、ラット疼痛モデルにGAD67を発現するウイルスベクターを投与すると、1)神経障害性疼痛が緩和され、そのメカニズムには、2)脊髄後角のGAD67が増加してGABA合成が促進すること、脊髄後角のTNF-α放出が抑制されることが関与すること、4)ウイルスベクターを投与した疼痛モデルにGABA受容体アンタゴニストを足底部に注入すると、疼痛閾値が低下し鎮痛効果が抑制されることを明らかにした。2020年度より2021年度にかけては、本研究をさらに進めるため、今まで我々が用いてきた病原性を有するヘルペスウイルスを用いたウイルスベクターに替え、病原性のないアデノ随伴ウイルスを用いて神経細胞で特異的にGAD67 を発現するウイルスベクターの作成に取り組んだ。GAD67遺伝子(GAD1)を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを作成し、ラット初代培養脳細胞におけるGABA産生への影響を調査した。作成したAAVベクターの機能評価を細胞レベルより行っていき、細胞実験に加えて動物実験レベルでの評価を開始した。SYNまたはESYNプロモーターを持ったAAVベクターは、神経細胞特異的な遺伝子発現を誘導し、ヒトGAD1の導入によってGABA産生を亢進することが明らかになった。また、in vivoにおいても、神経組織へ遺伝子導入することを明らかにした。中間報告を2020年と2021年の日本ペインクリニック学会北海道支部会にて発表した。今後、安全で確実な遺伝子導入による痛みの治療法の確立を目指し、将来的には痛みの遺伝子治療の臨床応用に向けて引き続き本研究を進めていく。
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