研究実績の概要 |
人工心肺(Cardiopulmonary Bypass : CPB)では、グリコカリックスが障害されることが知られている。しかし、臓器ごとのグリコカリックスの障害の程度の違いについてはよく分かっていない。分子状水素は活性酸素を選択的に除去し、抗酸化・抗炎症・抗アポトーシス作用をもち、グリコカリックスの保護作用も報告されている。本研究の目的は、CPBによって主要臓器である心臓と肺と脳におけるグリコカリックスの障害に臓器特異性があるかを、血管内皮グリコカリックスの厚さを計測することにより明らかにすることと、分子状水素に各臓器のグリコカリックス保護作用と肺障害の軽減作用があるかをラットCPBモデルを用いて検討することである。 ラットを水素(H2)群・水素(H4)群・コントロール群・sham群の4群に分けた。H2群、H4群、は2%,4% H2をCPB開始から終了後1時間の間投与した。電子顕微鏡を用いてグリコカリックスの厚みを計測し、血清中のグリコカリックスの分解産物(syndecan-1)をELISAを用いて測定した。そして、血清および肺組織の炎症性サイトカイン(IL-1b, TNFα)をELISAを用いて測定した。人工心肺により心臓と肺では、血管内皮グリコカリックスの厚さは、有意に減少したが脳でほとんど変化しなかことにより、臓器によって障害の程度が異なることが明らかになった。2%分子状水素は人工心肺による全身炎症および肺障害を軽減せず、グリコカリックスの保護効果も認められないことが分かった。4%分子状水素は人工心肺による全身炎症および肺障害を軽減し、グリコカリックスの保護効果も認めた。今回の結果は人工心肺による臓器の障害についての理解を深めることに繋がると考えられる。そして、人工心肺に対する分子状水素の投与に関しては、投与方法や保護効果についてさらなる検証が必要である。
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