我々は、ラット神経付き肺潅流標本およびラットフィブリン誘発神経原性肺水腫モデルを用いた検討において、肺交感神経終末にカテコールアミンと共存する神経ペプチドY(NPY)による神経性調節が細胞透過性に関与することを明らかにした。しかしながら、NPYの作用機序については未だ不明なままである。本研究の目的は、in vitro肺細胞透過性評価系とげっ歯類を用いたin vivo脳死誘発肺水腫モデル系を確立し、NPYの作用機序を明らかにすることである。本年度は、ヒト気管支上皮細胞株Calu-3を用いたin vitro肺細胞透過性評価系の再構築とin vivo脳死誘発肺水腫モデルの構築を試みた。 これまで、in vitro肺細胞透過性評価系に使用していた海外製のセルカルチャーインサートが入手困難になったため、他メーカーの同類品を用い、安定したCalu-3細胞単層バリアを形成する培養条件を探った。Calu-3は単層形成時間にバラツキが大きく、またその単層はリポ多糖による細胞傷害性の刺激に対しても抵抗性を持つほど強固なバリア機能を示した。幾通りかの培養条件を検討したが、アッセイ系に応用可能と考えられる条件を見出せなかったため、Calu-3細胞を用いたin vitro肺細胞透過性評価系再構築を断念することにした。 In vivo脳死誘発肺水腫モデルは、ラット頭蓋内にバルーンカテーテルを挿入し、バルーン内に生理食塩水を注入することにより頭蓋内圧を上昇させ、脳幹部にヘルニアを起こすことにより作製した。同モデルからの気管支肺胞洗浄液採取法を確立し、サンプル中の総蛋白を含む生化学的検査法を検討中である。
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