研究課題/領域番号 |
19K09326
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
福井 聖 滋賀医科大学, 医学部, 講師 (80303783)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳機能画像 / VBM / MR Spectroecopy / 安静時fMRI / 慢性疼痛 / 扁桃体 |
研究実績の概要 |
20代・30代・40代・50代・60代・70歳以上の各年齢層において、痛みの無い健常者および6ヶ月以上長引く慢性痛患者を対象に、リハビリテーションを中心とする治療前後に脳MRI評価と慢性痛関連の臨床指標評価を行った。 MRI検査は、臨床用の3T-MR装置を用いて、全脳のT1強調画像によるVBM、安静時・機能的磁気共鳴画像(fMRI)/BOLD、64軸-拡散強調画像(DWI)/DTI、および扁桃体のMRS測定が実施した。画像解析統計ソフトは、VBMにSPM12、安静時fMRIにCONN、DTIにBrainSuit、MRSにLCModelを用いて解析した。なお、fMRI信号の中でも、0.1Hz以下の低周波数成分を解析対象とした。また、DWIから、線維束走行をより高い角度分解能で得るために、FRT/FRACTによる結晶包囲分布(ODF)推定法を採用した。 本研究は、滋賀医科大学倫理審査委員会の承認を経て行った。 痛みの無い20代・30代の健常者・各4名(男女比=2:2)の計8名(全例が右利き)において、安静時fMRI解析を終了した。その結果、扁桃体において右側で有意なFunctional Connectivityは認めなかったが、左側では右の前頭回(superior/middle/inferior)とのFunctional Connectivityが強いことが判明した(p-FDR corrected <0.05)。また、前部帯状回においては、ROI内及び周囲(ACC/bilateral-paracingulate gyrus)との強いFunctional Connectivityを示した(p-FDR corrected <0.05)。 現在、健常者および慢性痛患者のリクルートとともに、運動療法前後のVBM、DTI、MRSに関しても順次解析と比較検証をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ対策で、病院に患者、職員以外の研究協力者などが来院することが禁止されている。また、新型コロナ対策で、慢性疼痛患者はできるだけオンライン診療、電話診療などで対応している。放射線科技師が手術患者に全例胸部CTを撮影することになり、手がまわらない状況である。慢性疼痛患者も来院をできるだけ控えるようにして、対象となる患者数が減っていることなどがある。上記の理由から中年、高齢者の健常者ライブラリの構築、慢性疼痛患者のリクルート、撮影が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
慢性痛患者に共通の「脳のサイン」が、帯状回、前頭前野眼窩部、島および橋被蓋部といった痛みの伝達に起因する領域において局所的な形態学的変化が検出されている(May A, 2008)。実際に我々は、VBMにて下前頭眼窩部、嗅内野、島、扁桃体で灰白質減少を認めた慢性腰痛患者において、治療後に正常化を示した自験例も報告している(科研費・研究成果報告書:26462381)。本研究は、運動療法の効果を機能的および解剖学的結合性の両方を検証する希少な研究であり、さらにMRSを加えた報告はみられないことから、今後、新たな知見が得られると期待される。 脳における疼痛伝達の情報処理機構には未解明な部分が多く、慢性痛患者等におけるMRIを用いた扁桃体をROIとする先行研究は報告が増えているが、体積やFunctional Connectivityの増減に関する見解は未だ一致していない。各ネットワーク間の競合も視野に入れて、統計解析に妥当な症例数まで増やし検証していく必要がある。 今後、新型コロナウイルス対策で、中高年患者のライブラリ構築がさらに難しくなることが予想される。また、慢性疼痛患者も遠隔診療や電話診療などで、かなり減少している。健常者ライブラリ、慢性疼痛患者の撮影、同意はたいへん難しい状況であるが、現在日本の痛みの臨床現場で、脳機能画像を解析している研究は非常に少なく、海外に著しく差をつけられている。たとえ症例数は少なくとも、日本、滋賀県、大学、附属病院をめぐるコロナ対策が落ち着けば、研究を再開するとともに、できる範囲でデータを蓄積していきたい。 脳の可視化は、患者自身の脳レベルの不具合や改善を理解する事ができる。本研究の非侵襲的な評価・治療システムによって得られた脳画像データを患者に示す事で、リハビリテーションや心理的アプローチなどの多面的アプローチによる慢性痛の治療が行いやすくなると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ対策で健常者の病院への来院が禁止されており、中高年の健常者ライブラリの構築が遅れている。また、慢性疼痛患者もできるだけ遠隔診療や電話診療で対応するようにしており、対象となる慢性疼痛患者自身もできるだけ来院数を控えて減少している状況にある。またリハビリテーション部は外来診療禁止となり、集学的治療はできない状況になっている。慢性疼痛患者に対するリクルート、同意、撮影がたいへん遅れている。そのような状況ではあるが、日本の痛み医療での脳機能画像を用いた臨床研究は、他国にたいへん遅れをとっており、少ない症例でも、研究をすすめていきたい。コロナ対策が世界的、日本的におちつけば、様々な学会で情報収集も再開していきたい。外来での慢性疼痛の臨床研究はたいへん遅れているが、コロナ対策があまり長引くようであれば、入院の手術患者などで代替することも考慮にいれている。
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