様々な障害に対する生体応答は、急性期離脱後の予後を大きく左右するので、その評価は重要である。申請者らは、生体細胞を解析対象とした生体応答の評価法を確立することにより、周術期管理の評価に役立てたいと考えている。本研究では、臓器損傷に対する生体応答を、(1)血管破綻による血流障害によって生じる「低酸素に対 する低酸素誘導因子HIF1α経路」、(2)組織損傷によって作動する「炎症応答の主要転写因子NF-kB経路」の2つの生存シグナルを評価項目として、種々の細胞・動物モデルを解析することにより、臓器損傷時の生体侵襲応答評価を行う。申請者の研究グループは、細胞内二次伝 達物質ジアシルグリセロール(DG)のリン酸化酵素DGキナーゼ(DGK) ファミリーに関して、種々の病態モデルを用いた生体臓器における機能解析を行い、ゼータ型 DGK(DGKζ)が生体ストレス応答と密接に関連することを報告してきた。これまでの研究により、DGKζ-KO細胞では、エネルギーセンサーであるAMPKの活性化が亢進することが明らかになったので、本年度は、DGKζ-KO細胞における生体エネルギーATP量を測定した。その結果、DGKζ-KO細胞では、野生型細胞と比較して、ATP量は約1.2倍に増加していることを見出した。申請者らは以前の研究で、DGKζ-KO細胞においては、ATP枯渇に応答してAMPKをリン酸化するLKB1が抑制されているというデータを得ており、本年度のデータと一致する。これらの結果から、DGKζ-KO細胞では、ATPセンサーは正常に作動しているが、それ以外のAMPK活性化機構の異常が原因であることを裏付けるものである。
|