研究実績の概要 |
敗血症の死亡率は高度先進医療施設においてもここ10年あまり20~30%で推移したまま改善が見られておらず、院内死亡の実に1/3に関連するとも言われている。本研究は、敗血症の新たな治療戦略開発を目指し、胎児の赤血球機能に着目したプロジェクトである。赤血球は酸素運搬分子としてしか考えられていなかったが、2018年に赤血球上の膜タンパクを介して免疫反応を制御していることが示唆された(Hotz, Am J Respir and Crit Care Med, 2018)。敗血症の致死率は成人では高い(20-30%)のに対し、新生児では低い(10-15%)ことが知られている(Vincent, Crit care Med 2002; Yaguchi, J Thromb Haemost 2004)。これらの知見を統合し、申請者は免疫機能の発達していない新生児の敗血症耐性メカニズムについて、胎児赤血球に鍵となる分子機構が備わっていると仮説を立て、本研究を遂行している。本研究では新生児と成人の比較検討だけでなく、早産児にも注目している。早産の原因のほとんどは感染とされており、早産児は満期産児に比べ、胎児免疫機構が損なわれている可能性があり、早産児と満期産児の比較検討によっても胎児免疫の鍵分子が見出される可能性がある。本研究では出生直後に全例で行われるガスリー検査の血液サンプルを戦略的・効率的に使用することによって、「赤血球プロテオミクス解析による胎児赤血球特異的タンパク候補抽出→in vitro解析による胎児赤血球免疫関連分子同定→in vivo敗血症モデルを用いた赤血球標的敗血症治療戦略確立」という理想的な研究計画の下、推進していき、これまで全く注目されてこなかった赤血球の機能制御による敗血症制御戦略を開発していく。
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