脳梗塞に対するグルタミン酸拮抗薬の有効性は数多くの動物実験(脳梗塞モデル)で報告されている。しかし、臨床研究では精神作用(興奮、緊張、幻覚)のため、全て開発が中断され、臨床で使用できる薬剤が存在しない。一方、心停止中に用いる場合、患者は意識消失しており、投薬期間中の精神作用(興奮、緊張、幻覚)は問題とならない。本研究ではグルタミン酸拮抗薬として硫酸マグネシウムを使用しグルタミン酸放出抑制に及ぼす影響を検証した。神経細胞は膜電位消失により電位依存性カルシウムチャンネルが開口し、プレシナプスよりグルタミン酸を放出する。電位依存性カルシウムチャンネルは1秒以内に自動的に閉鎖されるがグルタミン酸チャネルは開口状態を維持し、細胞内カルシウム濃度が上昇する。これにより更にグルタミン酸が放出されると考えられている。マグネシウムイオンはカルシウムよりサイズが大きい2価の陽イオンであるためチャネルを閉塞しカルシウムの流入を止めると考えられている。 雄性SDラットを用い、人工呼吸下にマイクロダイアライシスプローブを右頭頂葉に刺入しグルタミン酸濃度を測定した。食道から100Hz,50mAの電気刺激を加え心停止を負荷した。人工呼吸は継続的に施行し、心停止6分後より胸骨圧迫を開始した。マグネシウム投与群では胸骨圧迫開始と同時にマグネシウムを静脈内投与した。両群とも心停止2分後に膜電位の消失を認め、直後より細胞外グルタミン酸濃度の上昇が観察された。20分後には、両群とも細胞外グルタミン酸濃度が400μmol/Lに上昇したが、群間に差を認めなかった。この結果よりマグネシウムの脳保護効果はグルタミン酸放出抑制を介したものではないことが示唆された。
|