研究課題/領域番号 |
19K09359
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
澁田 達史 国際医療福祉大学, 医学部, 教授 (20324767)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 麻酔薬 / 幼弱脳 / 神経傷害 / カルシウムイメージング / プレコンディショニング作用 |
研究実績の概要 |
静脈麻酔薬プロポフォールのプレコンディショニング作用を解明する研究を行った。培養2日目に12時間100 nMから1microMのプロポフォールをプレコンディショニングとして投与し、これらのプロポフォールを一旦すべて洗い流した後に、細胞傷害を引き起こした濃度(10, 100 microM)のプロポフォールを24時間投与し、細胞生存率を形態学的に測定、判定を行った。また、研究の進捗が予想以上に順調であったため、次年度に予定していたカルシウムイメージングによる研究を前倒しで行った。 これらの研究発表としては2019年11月17日に鳥取県米子市で開催された日本小児麻酔学会第25回大会において「ラット大脳皮質神経細胞においてプロポフォールによるプレコンディショニングは生存率を上昇させるか」とのタイトルで研究協力者である森田知孝とともに発表を行い、現状ではプレコンディショニング作用は否定的であるとの見解を示し、有意義な知見の交換をすることが出来た。同小児麻酔学会総会においては、併せて英語による麻酔科教育に関する講演も行った。その他、令和元年度においては第37回日本麻酔・集中治療テクノロジー学会において今後のデータ解析の際に必要となるデバイスの開発を行った研究を2題、研究協力者である森田知孝らと共に行った。学会発表は本邦のみならず、海外においても行い、スペインのビルバオで開催された第38回The European Society of Regional Anaesthesia & Pain Therapy Congressでも局所麻酔の鎮静、鎮痛効果など本研究に関連すると考えられる神経系に関する作用に関し幅広いディスカッションを行うことが出来、たいへん有意義であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本邦において現在最も頻用される静脈麻酔薬プロポフォールのプレコンディショニング作用を解明する研究を行った。近年、話題となっているプロポフォールの神経系における作用の一つとして、乳幼児の脳弱神経細胞における神経毒性が挙げられる。これは脳発達期のスパートに相当する時期に麻酔薬を投与すると、当該時期に神経細胞を含む中枢神経系に傷害を与えるだけではなく、将来的な認知学習機能においてもネガティブな影響を及ぼすというものである。また、一方でこういった神経傷害的に作用する薬物や状況を本格的に曝露する前に、人為的に低容量の薬物や軽度の状況に曝露することにより、作用を軽減させるというプレコンディショニング作用の考え方に基づいた予防的治療法が、積極的に行われようとしている。以前、我々の初代培養ラット大脳皮質神経細胞をもちいた研究では、培養3-4日目に10microMのプロポフォールを24時間曝露した場合、有意に脳神経細胞の生存率が減少することを示した。そこで、今回は培養2日目に12時間100 nMから1microMのプロポフォールをプレコンディショニングとして投与し、これらのプロポフォールを一旦すべて洗い流した後に、細胞傷害を引き起こした濃度(10, 100 microM)のプロポフォールを24時間投与し、細胞生存率を形態学的に測定、判定を行った。現在、解析の途中であるが、プロポフォール10または100microMを曝露した場合の細胞生存率は、プレコンディショニングの有無により有意差は認められていない状況である。培養皿数に関しては、概ね十分であると考えられたので、次年度に予定していた、カルシウムイメージングによる解析も開始した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究に関しては、一部前倒しを行った研究を進めていく所存である。具体的には、以前、我々の初代培養ラット大脳皮質神経細胞をもちいた研究では、培養3-4日目に10microMのプロポフォールを曝露した場合、脳神経細胞内におけるカルシウム濃度が有意に上昇することを示したことから、形態学的研究と同様、培養2日目に12時間100 nMから1microMのプロポフォールをプレコンディショニングとして投与し、これらのプロポフォールを一旦すべて洗い流した後、培養3日目から4日目に、細胞傷害を引き起こした濃度(10, 100 microM)のプロポフォールを投与し、細胞内カルシウム濃度を測定する。これらのカルシウムイメージングによる解析を行い、プレコンディショニング作用が細胞内カルシウム濃度の変化に影響をあたえるのかを調べる予定である。その後は同様にレミダゾラム、エトミデート、フォスプロポフォール、デクスメデトミジンを臨床使用濃度およびその0.01-100倍の濃度にて曝露し、24時間後の細胞生存状況を形態学的に観察する。また、同様に培養した細胞に対し、Caイメージング法を用いてDIV4,8,13において、各麻酔薬を投与し、神経細胞内カルシウム濃度([Ca2 +]i)の変化を測定する。これにより、プレコンディショニングに必要なレミダゾラム、エトミデート、フォスプロポフォール、デクスメデトミジンの濃度を決定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に進行し、次年度遂行予定の研究を一部前倒ししたため。
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