本年度は静脈麻酔薬ケタミンのプレコンディショニング作用を解明する研究解析を行った。 E17ウイスターラットの胎児より大脳皮質を摘出し、神経細胞の初代培養を行った。培養開始から中枢神経系のグローススパートに相当する培養3日目までの72時間、麻酔薬として臨床に使用されている濃度である10microM並びに過剰投与量である100microMにてケタミンをプレコンディショニングとして細胞に曝露した。このケタミンは初回の培養液全交換に際し、すべて除去した。その後2週間、神経細胞の培養を行った。培養13日目に、神経伝達物質であるドーパミンもしくはセロトニンを神経細胞に曝露し、培養大脳皮質神経細胞における傷害率の変化をトリパンブルー染色法による形態学的検査により解析した。その結果、以前同様の研究を行った神経伝達物質グルタミン酸曝露で見られたような,幼若期におけるケタミン曝露による細胞傷害性の増加はドーパミン並びにセロトニンでは観察することができなかった。また、同時に行った細胞内カルシウム濃度測定試薬である Fluo-4によるカルシウムイメージングによる解析においても,ドーパミンやセロトニンではグルタミン酸曝露の際に見られた培養初期ケタミン曝露による有意な細胞内カルシウム濃度の上昇も引き起こされなかった。 これらの結果を研究協力者の森田知孝、小阪淳(国際医医療福祉大学)と共に解析し、 第69回日本麻酔科学会総会(神戸市)、第27回日本小児麻酔学会総会(岡山市)等で発表を行った。これらの学会におけるディスカッションを踏まえ英文論文を作成し投稿を完了した。 全期間においては,幼若脳神経細胞に対する傷害作用が認められる静脈麻酔薬プロポフォールによるプレコンディショニングによる神経毒性軽減効果の有無を調べた論文がPlosOne17(8): e0273219に掲載されたことを付記する。
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