手術侵襲時の血漿量維持のために使用されるヒドロキシエチルデンプン(HES)製剤は、炎症時には血管内皮細胞表面のグリコカリックスを崩壊させることにより臓器不全をきたす。侵襲時におけるグリコカリックスの構造変化には、血流、炎症性サイトカインなど複雑な要因がかかわっている。本研究は、血管収縮薬が血流量を減少させることにより血液のずり応力を減少させる結果、HESのグリコカリックス崩壊作用を弱める可能性を調べた。 グリコカリックスの成分であるヒアルロン酸溶液の動的粘弾性におよぼすHESの影響を調べた実験では、HESは、ヒアルロン酸溶液の貯蔵弾性率と損失弾性率を増加させた。この結果は、HESがヒアルロン酸溶液をより弾性的にすること、より粘性的にすることを示している。 全身麻酔導入後のHESの血漿増量効果を血管収縮薬投与の有無で比較した臨床研究では、血管収縮薬により平均血圧を維持した群においてHESの血漿増量効果は減少した。この結果は、血管収縮薬による血圧回復が毛細血管圧を高めることにより、血管内から細胞間質への水移動を増加させたことによると考えられた。一方、ヒアルロン酸の血漿濃度は、いずれの群においてもHES投与、血管収縮薬により有意な変化を示さなかった。今回の結果は、HES投与時に血管収縮薬を使用すると、グリコカリックスの構成成分は変化しないが、グリコカリックス内の水が血管内腔に放出される可能性があることを示している。
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