現在、健康寿命を延ばすために難治性の神経障害性疼痛への対応が社会的に求められている。我々は、妊娠が痛み閾値を上昇させることに着目し、さまざまな痛みと同様に神経障害性疼痛も分娩直前に抑制されることを明らかにした。またその機序に脊髄後角が大きく関わり、活性化したグリア細胞を抑制することが重要であることも示している。さらに脊髄後角において活性酸素の産生の主座であるミトコンドリアの分裂を触媒するDrp1(dynamic-related protein 1)が神経障害性疼痛時には増加しているが、分娩直前にはその増加が抑制されると言うことを明らかにした。 今回我々は神経障害性疼痛時に脊髄で減弱されることが明らかであるγ-アミノ酪酸(GABA)抑制系に着目している。まず、妊娠ラットを作成し、神経障害性疼痛モデルを作成するために手術を施行する。分娩直前のラットの脊髄をサンプルとしてウエスタンブロットによるタンパク量の研究を進めている。また活性化ミクログリアから分泌され、アロディニアの形成に重要であるBDNFについての検討を実施している。現在使用しているのはアブカム社のAnti-BDNF antibody[EPR1292]ab108319であり、濃度などの条件を変更しながら染色を繰り返しているところである。 さらに実際にGABAの分泌に対する理解を深めるために免疫染色にて妊娠ラットの脊髄でのGABAの動態について実験を繰り返しているが、難渋している。再度ポジティブコントロールとして妊娠19週の胎生ラットより脳を取り出し染色を行った。様々な条件を変更して染色を試行したが、その都度染色のされ方が異なり、どの条件が最適であるかの評価には至っていない。 これまでの研究で明らかにすることはできなかったが、今後その詳細を明らかにすることにより神経障害性疼痛の新たな治療法につながっていくと考えている。 痛みに対して生物が持つ鎮痛方法の応用を目指している。
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