研究課題/領域番号 |
19K09368
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
荻野 祐一 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (20420094)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非器質的疼痛 / 認知性疼痛 / 脳 / MRI / 抗うつ薬 / 非定型歯痛 |
研究実績の概要 |
本研究は原因不明の(器質的原因の明らかでない)非特異的疼痛(認知性疼痛)の病態解明が目的である。ペインクリニック外来において、非定型口腔顔面痛は典型的な認知性疼痛疾患であり、軽微な歯科治療を契機に長引く痛みや違和感を訴えるが、器質的原因が見当たらない興味深い疾患群である。経験的に三環系抗うつ薬投与が有効であるが、その病態と治療機序は不明であるので、その病態をMRIを用いた中枢からのアプローチにより、仮説:「非定型口腔顔面痛の病態は前頭前野の異常興奮にあり(横断研究)、治療の縦断的観察により、前頭前野と帯状回の機能的結合性の正常化(鎮静化)が見られる」を検証する。
非定型口腔顔面痛は「認知性疼痛」の代表的疾患であり、「臨床的神経学的欠損が見つからないが、3ヵ月以上1日2時間以上持続した毎日繰り返す、様々な症状を伴う顔面または口腔の痛み」と定義されており (国際頭痛分類第3版;.13.11)、血管造影MRI検査により、三叉神経痛とは明確に区別される (Maarbjerg et al. Cephalalgia 2016)。他の「認知性疼痛」の代表疾患である線維筋痛症、顎関節症、舌痛症、過敏性腸症候群、むずむず脚症候群、慢性疲労症候群とともに診断基準が類似、疾患間合併を認め、抑うつ・不安を伴い、女性に好発し、似た治療に反応、という共通した特徴を持つことが、比較的以前から分かっている。
本年度は治療前後で縦断変化を捉えるため症例数を集積した。未だ中途であるものの、その解析を進めている。中途報告として国際頭痛学会(アムステルダムにて2020年8月開催予定)に演題を投稿したが、コロナウイルスの世界的パンデミックにより次年度へと延期が決定した(開催時期未定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本報告書執筆時点ではコロナウイルスの世界的パンデミックにより、通常の診療と研究活動に影響が出ており、それは本研究対象疾患と患者も例外ではなく、症例集積の度合いは減少傾向を認めている。しかし、既にこの2年間に治療を終えてDataとして集積した症例数は18例となっており、集団解析できるレベルになっているため、国際学会における発表として準備してきたものを進捗させる計画である。
当院では、医療関係者の共感表出に関わる神経基盤をVBMと安静時fMRIにおいて調査し、報酬系と外側前頭領域の間の機能的結合の減弱が見られることを見出したことについては、論文として発表するに至った。Ogino Y, Kawamichi H, Kakeda T, Saito S. Exploring the Neural Correlates in Adopting a Realistic View: A Neural Structural and Functional Connectivity Study With Female Nurses. Front Hum Neurosci. 2019; 13: 197.
また、2013年より脳可塑性と運動生理の共同研究として高度な運動選手の減量効果と鍛錬、その感覚系機能強化の神経基盤を探る研究を開始し、痛みと減量の先行研究 (Ogino et al. Anesth Analg. 2014) を基に、感覚統合を担う島皮質領域と、辺縁系の中核的領域である線条体に構造変化を惹起し、前頭野を中心とした広範領域に機能的結合性を認めた上に、体重変化率により強調されることが分かったことについては、プロボクサーの試合前後における脳密度変化と脳ネットワーク解析:スポーツ脳科学研究 デサントスポーツ科学 2019. Vol. 40. p189-195.として公表済み。
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今後の研究の推進方策 |
標準的治療薬である三環系抗うつ薬の作用部位、脳内動態を示唆することを狙っているので、症例集積は適正で順調であるものの、昨今の情勢を鑑み引き続き症例集積に努める。介入のない縦断的観察研究でありながらも、横断研究で検出された確証度の高い患者特異的な脳構造と機能ネットワークについて参照解析(reference analysis)する予定であり、治療過程と脳構造機能動態の因果関係をより確度高く明らかにする。他にも、線維筋痛症のような非定型慢性痛症例を豊富に経験しており、非定型口腔顔面痛を研究対象とするにあたり、その病態メカニズムと治療経過を、脳画像解析を用いて探求するのに、最も有利な研究環境にある。 本申請者のペインクリニック外来では、線維筋痛症、顎関節症、非定型口腔顔面痛、舌痛症を、歯科と連携で診察している。過去に、外来における簡易スクリーニングによる線維筋痛症検出の感度特異度調査を施行し、豊富な診療経験があり(日本臨床麻酔科学会誌 2013; 33: p775-80)、薬物療法と認知行動療法を中心とした非定型口腔顔面痛の治療に注力している。また一貫して脳の代謝・構造・機能画像解析を通じた痛み、慢性痛病態の解明に従事しており、最近では、患者の主観的な痛みや痛みに関するアンケート結果と脳構造・機能・ネットワークを明らかにしている (Sugimine et al. Molecular Pain 2016)。引き続き① 横断研究:「認知性疼痛」の代表格である非定型顔面痛患者の病態特異的な脳構造・機能ネットワークを抽出し(年齢・性別マッチングさせた対象群との比較)、② 縦断研究:治療前から治療開始後へと、その変化を観察し(患者群における時系列に追う)、脳構造・機能、連絡性(ネットワーク)の特異性・動態(ダイナミクス)という観点から、「認知性疼痛」の病態機序・治療機序を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予算通りの執行となったが、消費税等の端数から次年度使用額1,395円が生じた。翌年度分と併せて次年度の使用計画に則り執行する。
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