研究実績の概要 |
2021年に、非器質的疼痛(痛みを説明できるだけの客観的な器質的原因が明らかでない痛み)の要因として、これまで「心理的要因」とされてきたものが、ようやく「痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)」として呼称が決まった。非定型歯痛(Atypical Odontalgia, 以下AOと呼称する)は、典型的な痛覚変調性疼痛疾患であり、軽微な歯科治療を契機に長引く痛みや違和感を訴える一方、明らかな器質的原因が見当たらないという特徴を持つ。臨床におけるAO治療においては、経験的に高容量の抗うつ薬治療が有効であるが、その機序は不明であるため、本申請研究では、AO患者と健康被験者を対象に、頭部の磁気共鳴画像(MRI)を取得し(患者群は治療前・後の二時点で撮影)、AO患者群に特異的な脳構造と治療前後の脳機能ネットワーク変化の調査を実施し、仮説「抗うつ薬による治療前後で前頭葉と辺縁系を結ぶ機能的ネットワークが増加する」を検証した。AO治癒過程における脳構造・機能ネットワーク変化を解析し、 AO患者群に特異的な脳構造の解析も実施した。その特異的脳構造に関連する脳機能ネットワークも検索・data解析したが、残念ながら治療前後でも群間比較でも有意な違いを見出すことは出来なかったが、 慢性疼痛と化した神経障害性痛の病態において、第一次体性感覚野上の体部位再構成(reorganization)が生じることはよく知られている (Vartiainen et al. 2009; Hong et al. 2022など) 。われわれが見出した第一次体性感覚野上の口腔顔面領域における再構成がその病態を表している可能性は高く、意義深い研究実績を報告する。
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