研究実績の概要 |
骨粗鬆症に伴う疼痛の発症機序として、骨粗鬆症自体による疼痛が存在することが解明されてきており、骨粗鬆症による骨粗鬆性腰痛の概念が提唱されている。骨芽細胞はosteoprotegerin (OPG)を分泌し、receptor activator of NF-κB ligand (RANKL)-RANKの結合を阻害することで破骨細胞の活性化を抑制している。OPGは,破骨細胞の分化を阻害し骨吸収を抑制する。このバランスが崩れると、疼痛発生の原因となることがわかってきた。 骨代謝が関与している痛みの病態に対して、代表的な鎮痛薬が使用される際に、骨代謝そのものに与える影響の観点から安全で有効な使用法を探求することを目的とした。鎮痛薬による前処置の後、OPG産生を増強するプロスタグランジン類やBMP-4、bFGF等の骨代謝調節因子で刺激し、鎮痛薬の骨芽細胞に対する作用を検討する。各種鎮痛薬の個々の影響を明確にすることによって、骨粗鬆症に伴う痛みや骨転移の痛みの治療において、より適切な鎮痛薬の選択が可能になる。 今年度は、BMP-4は骨芽細胞においてS6 kinase, SMAD1/5/8の活性化を介してOPG遊離を増強させる。この機構におけるデュロキセチンの影響を検討した。デュロキセチンで前処置後にBMP-4(骨形成因子)でMC3T3-E1細胞を刺激するとOPG遊離が抑制された。BMP-4によるSMAD1/5/8の活性化を抑制し、S6 kinaseの活性化には影響を与えなかった。以上よりデュロキセチンはBMP-4によるOPG遊離をSMAD1/5/8を介して抑制していることがわかった。また、デュロキセチンはPGE1(骨吸収因)刺激によるOPGおよびIL-6の産生をp38 MAPKの活性化を介して増強することがわかった。骨芽細胞において, デュロキセチンは骨吸収因子刺激の場合では, OPG遊離増強を介し骨吸収に対し負の抑制作用を示し, 一方, 骨形成因子刺激の場合はOPG遊離抑制を介し骨形成に対し負の抑制作用を示し, 骨代謝を適切に微調整している可能性が示唆された。
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