研究課題/領域番号 |
19K09384
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
葛巻 直子 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (10507669)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 線維筋痛症 / iPS 細胞 / 知覚神経細胞 / ドパミン神経細胞 |
研究実績の概要 |
線維筋痛症は、全身の広範囲にわたって慢性的な原因不明の激しい痛みを生じる疾患であり、身体症状や精神症状など様々な随伴症状を伴うことが知られている。しかしながら、臨床検査や診察等ではそれらの症状を説明する明確な異常が認められず、そのメカニズムについては未だ不明なままである。そこで、本研究では、疾患特異的 iPS 細胞技術を応用し、健常者ならびに線維筋痛症患者由来 iPS 細胞から分化誘導により作製した知覚神経細胞ならびにドパミン神経細胞を用いて、線維筋痛症病態下で認められる細胞内変化の解析を試みた。まず、健常者ならびに線維筋痛症患者由来 iPS 細胞から知覚神経細胞への分化誘導を行ったところ、分化段階依存的な知覚神経細胞マーカーの発現が確認された。また、侵害受容器である TRPV1や、Nav1.9 および Cav2.2 等のイオンチャネルの発現も確認された。こうして得られた知覚神経細胞において、急性疼痛に関与するイオンチャネルや侵害受容器等の発現について解析した結果、健常者と線維筋痛症患者間で大きな差は認められなかった。一方、慢性疼痛の発症に関与する小胞型ヌクレオチドトランスポーターの発現量について検討した結果、健常者と比較して線維筋痛症患者 iPS 細胞由来知覚神経細胞において有意な発現増加が認められた。一方、精神症状のみならず疼痛制御機構にも重要なドパミン神経細胞への分化誘導を行い、ドパミンの合成と代謝に関与する因子に着目し検討した結果、健常者と比較して線維筋痛症患者 iPS 細胞由来ドパミン神経細胞において、ドパミンの代謝酵素の発現変動が認められた。以上の結果より、線維筋痛症に認められる痛覚伝達異常ならびに精神症状の発現には、末梢知覚神経の異常応答ならびに中脳ドパミン神経伝達障害が関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に樹立が完了している線維筋痛症患者由来 iPS 細胞を用いて、知覚神経細胞ならびにドパミン神経細胞への分化誘導を行い、病態解析を行うことができたため、当初予定していた検討は進められた。一方、線維筋痛症患者由来体細胞からの目的神経細胞への直接誘導についても検討を行う予定としており、ベクター作成等の準備に着手した。こうした取り組みにより、研究課題は概ね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の検討により、線維筋痛症に認められる痛覚伝達異常ならびに精神症状の発現には、末梢知覚神経の異常応答ならびに中脳ドパミン神経機能障害が関与している可能性が示唆されたため、今後は可能な限り例数を追加していく予定である。また、目的の神経細胞への誘導法の簡便化ならびに iPS 細胞樹立によるリプログラミングが疾患発症に関わるエピゲノム情報に影響を与える可能性についても考慮し、体細胞に特定神経細胞へ誘導可能な転写因子の遺伝子セットを導入することにより、iPS 細胞を介さずに神経細胞への誘導を行う直接誘導も視野に入れ、検討を行う予定である。 さらに、令和2年度は、疾患特異的 iPS 細胞解析より得た情報を元に、Cre-loxシステムを応用して、細胞種特異的な遺伝子組換え動物の作製に着手し、令和3年度に予定している線維筋痛症関連疼痛発現制御ネットワークを同定する手続きの準備を進める。
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