研究課題
本研究課題では、線維筋痛症の病態を細胞生物学的に明らかにするために、線維筋痛症患者 iPS 細胞より知覚神経あるいはドパミン神経細胞の分化誘導を行い、疾患の表現系について、神経サブタイプ横断的な解析を行った。これまでのiPS 細胞分化誘導技術を応用した検討より、線維筋痛症病態において、末梢知覚神経ならびに中枢ドパミン神経の器質的変容が認められた。今年度は、知覚神経細胞あるいはドパミン神経細胞における痛覚過敏あるいは情動障害に関わる分子の抽出をより詳細に解析を行う目的で、遺伝子発現変化を網羅的に検討した結果、皮膚線維芽細胞由来 iPS 細胞より分化誘導した両神経サブタイプにおいて、新規標的分子を含む多くの遺伝子発現変動が認められ、また、ドパミン神経細胞と比較して、知覚神経細胞において、より多くの遺伝子発現変動が認められた (fc>4)。一方、今年度においても、線維筋痛症の病態が中脳ドパミン神経細胞内変容に起因している可能性を想定し、線維筋痛症患者 iPS 細胞由来ドパミン神経細胞内で変化が認められ、加えて、精神症状の発現と関連の深い22q11.2染色体に含まれている候補因子に着目して、Cre-loxシステムを応用し、ドパミン神経特異的な遺伝子組換え動物の作製を行った。その結果、ドパミン神経細胞における候補一因子のみの発現制御では、疼痛閾値に大きな変化は認められなかったものの、不安感受性の亢進傾向が認められた。以上より、線維筋痛症の複合的な症状発現には、脳内における機能変容のみならず、知覚神経内変容も惹起されている可能性も考えられ、激しい痛みを緩和するためには、知覚神経の応答制御も重要である可能性が示唆された。今後は、知覚神経障害やドパミン神経障害を並行して惹起させるような複合型遺伝子改変動物モデルの構築を行い、より詳細なメカニズム解析を行っていく必要があると考えられる。
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