本研究の目的はこれまで明確ではなかった栄養投与を開始すべきタイミングを,代謝産物の解析(metabolomics)より判断できることを示すことであった.更に,高額で時間もかかるmetabolomicsに代わり,日常的に用いられる生理学的モニタリングや生化学的検査で同様の評価が可能な方法を合わせて検討した. 重症病態でICUに入室し,人工呼吸管理を7日以上要した患者を対象に,day1からday7日までの連続検体を用いて網羅的metabolome 分析を実施した.多変量解析にはMetaboAnalyst 5.0を用いた。主成分分析でmetabolomeの発現パターンを評価し, metabolomeの日毎の経時的変化を部分的最小二乗判別分析(PLS-DA)と変数の寄与度を表すvariable importance of projection(VIP)を用いて評価した.病態による変化も評価するため,敗血症群と非敗血症群の2群間でも同様に検討した.同時に収集したバイタルサイン,炎症反応,間接熱量測定結果,栄養に関連する理学所見などの臨床的兆候との関連についても評価した. 2021年7月から2022年9月までに19例が登録され,7日間分の血清が収集可能であった10例で検討した.アノテーションされたmetabolomeは123種類であった.主成分分析では各症例で共通する時系列的関係は認めなかった.経時的変化に関するPLS-DAでは明確には判別されなかったが,galactonic acidやornithineの寄与が大きかった.一方,敗血症群と非敗血症群は明確に区別され,creatine phosphateやuric acidの寄与が大きかった反面,他の臨床的指標との関連は明確ではなかった.
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