敗血症性ショックは周術期・集中治療領域で救命率の向上が望まれる重大な病態である。近年は日本版敗血症診療ガイドラインが策定され、速やかな診断・治療が試みられることで救命率が改善してきているが、全てを適切に講じた場合でも不幸な転機をたどることが少なくない。また治療法としては抗生剤投与、循環管理、原因除去が主な手段とされている。 近年、敗血症により血管内皮グリコカリックスが損傷を受けることが注目されている。グリコカリックスは血管内皮に存在する多糖類で、血管透過性を制御する役割を担う。このため、これまでは輸液反応性や血管内の抗凝固といった観点で研究されてきた。しかしグリコカリックスが損傷すると上昇するマーカーであるシンデカン-1は、敗血症の生存率と相関することが知られたことから(Shock 2008)、敗血症においてもグリコカリックスが関与しているのではないかと考えられている。そこで我々は敗血症の原因がグリコカリックス損傷にあるわけではないが、グリコカリックス損傷の程度は敗血症の重症化に関与しているのではないかという仮説を立てた。グリコかリックスが血管透過性を亢進し重症化に関与していることは分かったが、ヒアルロン酸投与が生存率改善には有効性がひくいことがわかり、グリコかリックス層の構成成分であるヒアルロン酸の投与をLPSによる敗血症モデル、類似のの熱中症モデル、出血性ショックモデルに投与した。最終的に我々の検証した投与量の範囲においては生存率はどちらのモデルでも改善していないことが分かった。また、その際の臓器ごとの血清バイオマーカー、グリコカリックス損傷を示すシンデカン1の変化はヒアルロン酸、デルマタン硫酸を投与しても差がでなかった。それにより、高度の炎症下におけるヒアルロン酸の投与は今回の研究においては有効性を認めなかった。
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