研究課題/領域番号 |
19K09392
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
朴 恩正 三重大学, 医学系研究科, 准教授 (20644587)
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研究分担者 |
川本 英嗣 三重大学, 医学部附属病院, 講師 (20577415)
島岡 要 三重大学, 医学系研究科, 教授 (40281133)
住吉 美穂 三重大学, 医学部附属病院, 助教 (50510971)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 敗血症 / 腸管上皮 / 細胞外小胞 / マイクロRNA / サイトカイン |
研究実績の概要 |
敗血症は多臓器機能不全障害を誘発する深刻な重症疾患であり、腸は敗血症や他重傷疾患において多臓器機能不全症候群のモーターともとらえている。一方で、エキソソームのような細胞外小胞(extracellular vesicles; EVs)は、細胞間コミュニケーションのメッセンジャーとしてタンパク質やmiRNAなどのカーゴをソース細胞から標的細胞に伝達する働きをする。敗血症における、腸管上皮から腸管内腔に分泌されるエキソソームの機能については、まだ、明らかになっていない。私たちは、敗血症のマウスモデル(cecal ligation and puncture; CLP)の腸管内腔洗浄液から超遠心分離の方法でEVsを回収した。そのEVsがEpCAMを発現する腸管上皮由来であることが分かった。さらに、敗血症腸管内腔から回収した腸管上皮由来のEVsが炎症性腸疾患マウスの炎症性サイトカイン(TNF-alphaとIL-17A)のmRNAの発現低下に関わっている可能性を示した。ここで、EVの機能性カーゴでもあるマイクロRNAのプロファイルを分析して、発現量が増加された多くのマイクロRNAを発見した。特に、TNF-alphaと IL-17Aの発現制御を担うと予想された候補群のなかから、RT-PCRの方法で発現増加が確認された複数のマイクロRNAを同定することが出来た。これらの研究結果で、敗血症において腸管上皮細胞由来のEVがマイクロRNAを標的細胞に伝達し、炎症性サイトカイン分子の発現を抑制する機能を発揮する可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で、腸管内腔に分泌されるEVが腸管上皮細胞由来であり、マウスの盲腸結紮穿刺(CLP)モデルを用いた敗血症ではそのEVが増加することを確認した。その敗血症EVは、正常モデルEVに比べて、マウス腸炎モデルで炎症性サイトカインの遺伝子発現を抑制することが分かった。さらに、敗血症の発生後にEVのマイクロRNAカーゴのプロファイルの分析、EVからRNAを抽出し遺伝子発現の分析を行った結果、制御性マイクロRNA群の発現増加が確認され、敗血症EVの新しい機能として腸管での粘膜炎症を抑制する可能性を示した。本研究で、我々は、敗血症EVの腸炎での未知であった新たな役割を検証することが出来、将来、そのEVの薬物伝達の生理的な媒体として疾患緩和に適用する可能性への科学的根拠を提供した。
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今後の研究の推進方策 |
今課題では、敗血症における腸管内腔に分泌する上皮細胞由来の細胞外小胞(EV)の腸の全体組織に対しての炎症抑制効果を示す可能性を探求した。これらの結果をベースにして、EVの腸管上皮細胞を含む様々な細胞への正確な機能を解明することも重要であると考えられる。例えば、今後の研究計画として、腸管上皮細胞と生理的な共通点を持つ上皮オルガノイドを培養・作製して敗血症EV処理後に免疫学的な変化を検討することや、T細胞のようなリンパ球に対しどのような機能的な影響を及ぼすのかについても研究していきたい。さらに、敗血症腸管上皮EVが肺組織や筋肉組織のような他組織に対してどの役割を果たすかを分析することも行い、敗血症EVの炎症抑制などの新しい疾患緩和効果を科学的に検証する基盤研究に貢献していきたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由):敗血症で腸管内腔に分泌されたエキソソームの免疫学的な特徴を調査する実験において、使用する抗体と定量PCR用試薬の必要数が当初の計画より少なく済んだため。 (使用計画):次年度に行うエキソソームの分析実験に使用する予定である。
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