研究課題/領域番号 |
19K09393
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北村 哲久 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (30639810)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 救急医学 / 蘇生科学 / 院外心停止 / 臨床疫学 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
本研究では、研究代表者が中心となって構築している救命センター等に搬送された院外心停止患者の多施設共同前向きレジストリを用いて、『心肺蘇生ガイドライン改定を見据えた院外心停止患者の高度集中治療と血液データの検証』することを目的とする。研究1年目となる令和元年度には、研究代表者ならびに研究協力者は、16施設から平成24年(2012年)7月~平成29年(2017年)12月までの5年半の期間の12,270症例のデータセットを構築した。 2012年から2016年までのデータセットを用いて、病院搬送後に体外循環式心肺蘇生(ECPR)が実施された256症例を対象に、「院外で心肺蘇生が開始されてから、院内で体外循環式心肺蘇生が開始されるまでの期間:低灌流時間(low flow duration)」と院外心停止発生1か月後の社会復帰率との関係を評価した。低灌流時間を短時間群(23-45分)、中時間群(46-57分)、長時間群(58-117分)の3分位にわけたところ、社会復帰率はそれぞれ22.0%(22/100)、17.1%(14/82)、6.8%(5/74)と早いほど良いという結果であった (傾向性p=0.016)。また、18歳未満の小児院外心停止患者263人を対象とし、心停止発生後の90日生存ならびに神経学的予後を評価した。院外心停止発生後90日での生存患者は6.1%、社会復帰患者は1.9%であり、それらの割合は観察期間中に有意に改善しなかった (傾向性p=0.167、0.394)。 研究はおおむね順調に進んでおり、上述の2報告については論文として発表することが出来た。本レジストリでは、毎年約2,000件の症例追加が見込まれている。今後もこの大規模なレジストリを用いて、バイオマーカーや病院搬送後の院外心停止患者に対する高度集中治療の有効性についての様々な解析を実施する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究1年目となる令和元年度において、平成24年(2012年)7月~平成29年(2017年)12月までの5年半の期間の、大阪府下の救命センターを中心に16施設から集積された院外心停止症例の病院搬送後データクリーニングを実施し、消防庁から提供された病院前救護記録と結合させた12,270件のデータセットを構築した。 2012年から2016年までのデータセットを用いて、病院搬送後に体外循環式心肺蘇生(ECPR)が実施された256症例を対象に、「院外で心肺蘇生が開始されてから、院内で体外循環式心肺蘇生が開始されるまでの期間:低灌流時間」と院外心停止1か月後の社会復帰率との関係を評価した。低灌流時間を短時間群(23-45分)、中時間群(46-57分)、長時間群(58-117分)の3分位にわけたところ、社会復帰率はそれぞれ22.0%、17.1%、6.8%と早いほど良いという結果であった (傾向性p=0.016)。電気ショックの適応である心室細動が持続していた場合に早期導入による社会復帰率が高く、また低灌流時間が長くなった場合においても社会復帰の可能性が高いことも明らかになった。また、18歳未満の小児院外心停止患者263人を対象とし、心停止発生後の90日生存ならびに神経学的予後を評価した。院外心停止発生後90日での生存患者は6.1%、社会復帰患者は1.9%であり、それらの割合は観察期間中に有意に改善しなかった。低灌流時間に関する研究はCirculation誌、小児院外心停止患者に関する研究はInternational Heart Journal誌にそれぞれ発表した。 血液ガスデータを用いた解析として、Lactateと院外心停止発生1か月後生存との関係、ECPR症例におけるpHと社会復帰の関係の評価し、共同研究者が2019年11月の米国心臓学会にて発表を行い、現在は論文化を準備中である。
|
今後の研究の推進方策 |
世界的に見ても院外心停止患者の社会復帰率は約3%に過ぎず、有効な予後因子の探索し、エビデンスを生み出すためには多くの症例を集積し続けることが重要である。令和2年4月現在、平成30年(2018年)に発生した大阪府下の救命救急センターからの約2000件のデータは既に集積しデータクリーニング済みであり、消防庁から2018年の院外心停止患者の病院前救護情報も取得し、これらのデータ結合を実施し、2012年7月~2018年12月までの約15,000件超のデータセットの構築を行う予定である。上述のLactateと心停止発生1か月後生存との関係、ECPR症例におけるpHと社会復帰の関係の論文化を進めるとともに、研究代表者はこの大規模データを用いて、成人院外心停止患者における社会復帰の経年的な変化や病院搬送後高度集中治療の性差に関する疫学的特徴を評価する解析の準備を進めている。加えて、その他のバイオマーカーや高度集中治療の有効性についてのさらなる探索的なデータ解析も予定している。 大阪府下の救命救急センターで始まったこの院外心停止患者登録は、平成26年(2014年)6月から日本救急医学会による学会ベースのレジストリに拡大し、全国レジストリとして約90施設から2014年から2017年までの症例約33,000症件が分析可能となっている。日本救急医学会とも連携を図りながら、様々なリサーチクエスチョンに対して多面的なアプローチも行う。その一方で、病院前救護における院外心停止患者の予後に関連する様々な因子についても多くの研究課題があり、これら研究課題についても集積されたデータ解析、論文化を進めて行く。研究成果の発信方法としては、英語原著論文、国内ならびに国際学会での発表を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に投稿する予定の論文掲載料約30万円分をまわすため。
|