研究課題/領域番号 |
19K09400
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
垣花 泰之 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (20264426)
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研究分担者 |
伊藤 隆史 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 特任准教授 (20381171)
上國料 千夏 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 特任助教 (50751278)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳内酸素飽和度 / 近赤外線分光法 / 心肺蘇生法 / 胸骨圧迫法 / 自己心拍再開 / 時間分解分光法 / 空間分解分光法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、(1)脳内酸素飽和度の絶対値が自己心拍再開(ROSC)の指標となる、(2)脳内酸素飽和度値の変化が順行性脳血流の指標となる、ことを証明した後、脳内酸素飽和度値を指標とする胸骨圧迫法が、蘇生率の向上につながることを検証することである。令和2年度は、(1)2つの近赤外線分光装置(NIRO装置、TRS装置)を用いた実験と、さらに脳実質に針電極を挿入し、心停止時の脳組織内酸素分圧の変化をTRSと同時測定で行った。(2)胸骨圧迫時の順行性脳血流の確認に関しては、造影剤をもちいて検証した。研究実績の概要:全身麻酔下のブタ (20-30kg)の頭皮を剥離した後、TRS21用のプローブを頭部の中心から右脳側へずらした位置に、NIRO用のプローブを左脳側に直接固定した。一方、脳組織内酸素分圧測定に関しては、まず、左頭蓋骨に直径3cmの穴をドリルであけ針電極を挿入固定後に、右頭蓋骨にTRS21用のプローブを直接装着した。プローブ装着後、交流を通電し心室細動による心停止を誘発し、5分間の心停止を維持した後に、オートパルスを用いた胸骨圧迫、およびアドレナリン投与による蘇生を8-10分間行い、電気的除細動によりROSCするまでの脳内酸素化状態を経時的に測定した。昨年度からの問題であった、胸骨圧迫時の順行性脳血流の確認に関して、右房に造影剤を注入し、胸骨中心部、右側、左側、腹部をそれぞれ圧迫し、部位の違いによる造影剤の流れを透視下に確認したが、逆行性脳血流が生じることはなかった。今年度に新たに導入した、脳組織内酸素分圧の同時測定に関しては、心停止時のNIRSによる脳内酸素飽和度値の低下よりも早いタイミングで脳実質内酸素分圧の急激な低下が認められた。胸骨圧迫時の体動による影響を除去する工夫が必要であるが、同時測定は今回の研究において重要な情報を得ることができるものと思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの進捗状況:令和2年度の目標は、(1)脳内酸素飽和度の絶対値が自己心拍再開(ROSC)の指標となる、(2)脳内酸素飽和度値の変化が順行性脳血流の指標となる、ことを証明することであった。「脳内酸素飽和度の絶対値が自己心拍再開(ROSC)の指標となる」ことの証明に関しては、NIRSである程度の証明はできていたが、NIRS以外の測定法でもそのことを裏付ける必要があると考え、針電極を用いた脳実質酸素分圧の同時測定を導入した。脳実質の酸素分圧は、心停止発生とほぼ同時に低下し、NIRS による脳内酸素飽和度は脳実質の酸素分圧低下にやや遅れて低下したが、ほぼ予想どおりの結果であった。しかし、脳実質に針を直接挿入するため、胸骨圧迫時の体動の影響を考慮した固定法を確立する必要があると思われた。一方、「脳内酸素飽和度値の変化が順行性脳血流の指標となる」に関しては、透視下に胸骨を圧迫しながら右房に造影剤を注入し、圧迫部位をいろいろ変えて検討したところ、視覚的に逆行性脳血流がないことが証明できた。しかし、コロナの影響で実験室の使用制限がでたため、実験を予定通りできない状況が長く続き、実験の遅れにつながった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、(1)脳内酸素飽和度の絶対値が自己心拍再開(ROSC)の指標となる、(2)脳内酸素飽和度値の変化が順行性脳血流の指標となる、ことを証明した後、脳内酸素飽和度値を指標とする胸骨圧迫法が、蘇生率の向上につながることを検証することである。令和2年度の目標である(1)脳内酸素飽和度値の変化が順行性脳血流の指標となる、に関しては、透視下に右房に造影剤を注入し、胸骨を圧迫しながらその流れを確認することで、逆行性脳血流がないことは証明できたと考えている。しかし、「脳内酸素飽和度の絶対値が自己心拍再開(ROSC)の指標となる」ことを証明することに関しては、NIRS単独による脳内酸素飽和度の測定だけではなく、脳内酸素化状態を別の測定法をもちいることで、より説得力のある検証ができるものと考えている。そのため、今回新たに導入した針電極を用いた脳実質内酸素分圧測定を導入した。そのため、令和3年度は、NIRSによる脳酸素飽和度と針電極による脳実質の酸素分圧の同時測定から、「脳内酸素飽和度の絶対値が自己心拍再開(ROSC)の指標となる」ことを証明することができると考えている。本研究の最終目標は、脳内酸素飽和度値を指標とする胸骨圧迫法が、蘇生率の向上につながることを検証することであり、現在の研究計画を進めることによって必ず達成できるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加や動物実験を予定していたが、コロナウィルスによる感染予防のため、学会参加や動物実験を予定どおりに遂行できなかった。それにより次年度使用額が生じた。 今後は、次年度使用額(B-A)と今年度分の助成金を併用し、実施できなかった動物実験も行っていく予定である。
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