研究課題
一酸化炭素中毒では、急性期の中毒症状だけではなく、数週間から数か月の後に認知機能の低下といった症状を呈する遅発性脳症を発症するケースがある。この詳しい病態生理はいまだ不明確である。これまでの我々の研究で、一酸化炭素に暴露された脳ではマイクログリアをはじめとする様々なグリア細胞やその前駆細胞の減少を認めており、海馬における様々な神経栄養因子の発現の低下が認められる。中でも、IGF-2と言われる神経栄養因子が存在するが、このIGF-2は記憶の強化や蓄積の過程で重要な役割を担っていることが報告されている。我々はIGF-2の投与による遅発性脳症の発症の抑制効果を検討している。IGF-2を投与したラットでは、行動実験で認知機能の低下が抑制され、それらの海馬では、一酸化炭素中毒のラットの海馬に比べ、ミエリン成分が有意に保持されていた。これらのことから、IGF-2の投与は、一酸化炭素によるミエリンの脱落を抑制し、認知機能の低下を抑制する可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
仮説として挙げた神経保護因子による遅発性脳症の発症抑制効果は一定の効果が認められるのではないかと考えられる。
今後はその他の神経保護因子の効果を検討することでIGF-2以外のより有効な神経保護因子を探す。また、神経保護因子は、単独の効果だけではなく、他の神経保護因子とともに効果が増強するものもあり、複数の神経保護因子による効果も同時に検討する。さらに、それぞれの神経保護因子の得られる効果がどういった機序なのか、その生理学的な機序の解明も行う。
これまでに研究室に保持していた試薬を優先的に使用したため。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
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