研究実績の概要 |
熱中症では暑熱暴露に伴い脳血管関門がひらくことで血液中の炎症細胞,細胞死や細胞の損傷など,細胞のストレスに伴って放出されるdamage-associated molecular patterns(DAMPs),炎症性サイトカイン(TNF-α, IL1β, IL-6)などが脳内に浸潤することが報告されている.しかし,熱中症後に中枢神経でどのような変化がおき,熱中症後の中枢神経の後遺症につながっているかについては全くわかっていない.中枢神経の中でも特に小脳は熱に脆弱で,ヒト熱中症でもautopsyで小脳プルキンエ細胞の腫脹や脱落が報告されている. 2021年度はまず熱中症後の小脳でそのような病態がおきているかに注目し検討をおこなった. 結果,遅発性神経傷害は熱中症から1週間後から徐々に出現し,3週後に有意に協調運動障害が出現した.また,小脳白質は熱中症から1週間~3週間にかけて脱髄がおき,9週では改善していた.また,プルキンエ細胞は有意に低下し,改善はみられなかった.また,プルキンエ細胞周囲のシナプズ(シナプス前・シナプス後)について検討をおこなったところ,熱中症3週間後のシナプス前・後の免疫染色であきらかな発現が低下し,一過性のシナプス障害が関連していることが示唆された.上記から,熱中症の遅発性神経傷害は,小脳白質の脱髄・プルキンエ細胞の脱落,一過性のシナプス傷害が関連していることが示唆された.今後は,熱中症後の脳血管関門の関与についてさらに検討をおこなう予定である.
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