研究課題/領域番号 |
19K09445
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
芝本 利重 金沢医科大学, 医学部, 教授 (90178921)
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研究分担者 |
谷田 守 金沢医科大学, 医学部, 准教授 (70512309)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アナフィラキシーショック / 体温低下 / 二相性反応 |
研究実績の概要 |
令和2年度は以下の3課題の検討を行った。(1)アナフィラキシーの化学伝達物質の検討:前年度に確立したラットアナフィラキシーモデルで次の生理活性物質の受容体阻害剤、すなわち、血小板活性化因子(PAF; ABT-1); ヒスタミン(pyrilamine); Prostaglandin D2(MK-0524)の前投与の効果を調べた。その結果、血圧と体温低下に対する抑制効果はABT-1がpyrilamineより強く、それらの同時投与で血圧低下はほぼ完全に抑制されたが、体温低下はされなかった。一方、MK-042の有意な抑制効果はなかった。以上よりPAFとヒスタミンが血圧低下と体温低下に大きく関与することが示唆された。(2)サイトカインの検討:前述の実験モデルで抗原投与後、6分から24時間まで12種のサイトカインの血漿濃度を経時的に測定した。有意に検出されたIL-1α, IL-1β, IL-6, IL-10, TNF-αのピーク値は抗原投与後早期の1時間と2時間にみられた。臨床では二相性反応は通常、抗原暴露6時間以降に生ずるため、二相性発現にこれらのサイトカインの関与は少ないことが示唆された。(3)二相性反応の検出の検討:抗原投与1週間前に深部温度測定のためにNano tagを腹腔内に留置した。抗原はカテーテル留置をしない非侵襲的状態で午前10時頃にの尾静脈内に投与した。抗原投与により深部温度と体表温度は抗原投与前値のそれぞれ37.0±0.4℃と35.4±1.0℃から抗原投与後67分に最低値である34.9±1.2℃と34.0±1.4℃に低下し、投与後2時間30分頃には投与前値に復した。その後、体温は抗原投与24時間後まで日内変動に従った変動しか観察されなかった。以上より、本ラットアナフィラキシーモデルでは後期の温度低下は見られず、アナフィラキシーの二相性反応は生じないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、本年度に計画していたラットのアナフィラキシーモデルでのサイトカインの網羅的解析は予定どおり遂行できた。さらに、アナフィラキシー時の体温低下の機序解明、すなわち、その化学伝達物質の同定実験を当初計画していなかったが、追加して行った。しかし、アナフィラキシーの二相性半のモデルの確立については、最初のアナフィラキシー反応時には予測していたように体表温度の低下が深部温度低下とともに検出されたが、その後も体表温度ならびに深部温度の測定を継続するもそれらの低下はなく、アナフィラキシーの二相性反応は見られないことが判明した。以上より、計画当初より、研究の進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者が以前から使用しているラットのアナフィラキシーモデルでは二相性反応がみられなかった。その一因として、抗原感作の方法の違いが考えられる。本実験モデルでは抗原性を増強させるためにadjuvantとしてComplete Freunt adjuvantを抗原に加えて感作している。そこで、新たにラットにおいてadjuvantを使用しないで、抗原である卵白アルブミンの量あるいは投与回数を多くして感作し、アナフィラキシーの二相性反応の誘導を試みる。それでも、アナフィラキシー反応及び二相性反応が生じない場合には、動物種をラットからマウスに変更する。実際、Leeら(J. Exp. Med.2003;198:145-51.)はマウスのアナフィラキシーモデルで二相性反応を報告している。そこで、マウスの実験モデルにサーモグラフィーによる体温測定技術を応用して、初期反応に引き続いて二相性に体温が低下することの確認実験を行う。それらに基づいて、ラットあるいはマウスのアナフィラキシーモデルにおいて当初計画したステロイドの抑制効果の検討ならびにサイトカインについての実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染蔓延のために学会開催が中止となり、研究成果の発表ができなかったために学会参加費ならびに旅費が使用されなかったため。アナフィラキシーの二相性反応誘導のためのラットを用いた新たな実験で動物購入費などに使用する。
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