ほぼ分裂しないで未分化な状態を維持しているグリオーマ幹細胞は、増殖盛んな腫瘍組織に効果を発揮する標準治療から免れると考えられており、予後不良の要因の1つになっている。しかしながら、グリオーマ幹細胞の未分化性を制御するエピゲノムに関する詳細なメカニズムについては明らかになっておらず、また治療抵抗性を獲得したグリオーマ幹細胞を除去できるような治療法は未だ確立されていない。 本研究では、テトラサイクリン誘導システム、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術、レンチウイルス、PiggyBacシステムなどによってヒストンH2Bをユビキチン化するエピゲノム因子RNF20の発現レベルを変化させた患者由来グリオーマ細胞株を用いて、腫瘍幹細胞の性質の変化と腫瘍形成能、及びグリオーマ治療薬に対する効果を、in vitroおよびin vivo(Rag2ノックアウトマウスの脳への遺伝子改変グリオーマ細胞の移植による腫瘍形成効果)の両面から検証した。その結果、RNF20の発現量が低いグリオーマでは、未分化性が高まり、高い腫瘍形成能を有する悪性グリオーマになることがわかった。他方、RNF20の発現量の高いグリオーマは、未分化性が低く、腫瘍形成能の低下したグリオーマになることがわかった。さらに、RNF20の発現変化で変動する遺伝子群の網羅的解析を行なった結果、RNF20下流の腫瘍悪性化につながる新しい分子機序の同定と、この知見に基づく新しい治療ターゲットの開発に着手することができた。 本研究に関する成果は学会発表等で適宜報告してきており、論文投稿のための準備が行われている。
|