昨年度までに研究代表者は、脳梗塞モデル動物を用いて、プロゲステロン(P4)受容体アゴニストnestoroneが、脳梗塞発症半日以上経過後の投与であっても、脳梗塞領域を顕著に減少させると共に、運動感覚機能障害も大幅に改善させることを示すデータを得た。これらのデータは当初、準備が容易な若齢動物から得ていたが、脳梗塞は主に高齢者が発症する病気であることから、高齢動物においても実験を行い、同様にnestoroneの優れた脳保護作用を示すデータを得た。しかしながら高齢動物は若齢より脆弱であるためか、脳梗塞処置後必要な実験を行う前に死亡する例もあり、統計学的に信頼できるサンプルサイズが確保できていなかった。そこで研究期間を1年延長し、追加実験を行った。サンプルを増やしてもデータの傾向は変わらず、nestoroneは高齢動物においても有意に脳梗塞領域を顕著に減少させ、運動感覚機能障害を改善させた。以上の結果から、nestoroneは加齢に依存せず脳虚血傷害に対して頑強な脳保護作用を有することが実証された。 加えて、nestoroneの脳保護作用の機序の解明も進めた。プロゲステロンによる抗神経炎症作用が報告されていることから、脳梗塞後の神経炎症をnestoroneが抑えるか否か検証した。脳梗塞処置後、神経炎症のメディエーターであるNF-kappaBの発現は上昇したが、nestoroneはその上昇を有意に抑制した。このことからnestoroneは、脳梗塞後のNF-kappaBの上昇を抑制することで抗神経炎症作用を発揮し、脳虚血傷害を防いでいる可能性が示唆された。
|