研究課題/領域番号 |
19K09480
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
麻生 俊彦 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 副チームリーダー (50397543)
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研究分担者 |
上野 智弘 京都大学, 医学研究科, 助教 (10379034)
菊池 隆幸 京都大学, 医学研究科, 助教 (40625084)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳腫瘍 / MRI / 血流ラグマップ / 安静時fMRI / 脳動静脈奇形 |
研究実績の概要 |
新規に開発したMRIによる造影なしの脳血流マッピング法を改良し、バイオマーカーを開発するとともに、健常者および患者データの取得を開始することを初年度の目標とした。まず、本手法のベースとなるヘモグロビン信号の低周波変動について、新たなモデルを提案する論文を発表した(Aso et al., 2019, PLoS ONE)。従来の機能的MRIでは考慮されていなかった、血液中の酸素飽和度の変動が存在し、それが血管樹を通過していく際に脳の各部位で違った位相の変動を起こすというメカニズムを提案したものである。これは機能的MRIの信号モデルの更新を提案したものでもあり、脳の機能マッピングにおけるMRIの信頼性を高める意義を有する。 ラグマッピング法の実用面では、まず疾患以前の加齢にともなう変化を調べるため、静脈排出と脳室拡大および脳萎縮の関係について、幅広い年齢の225名の健常被験者と頭部外傷患者群(71名)を比較した。結果として、脳室拡大には静脈を介する一般化可能なメカニズムが存在すること、つまり加齢に伴って、誰でも軽い水頭症が起こっていることを示唆する画期的な結果を得た(Aso, 2020. Brain)。ここで観察したラグマップの加齢変化もまた、脳の神経細胞の分布とは全く関係なく、血管構造を反映するものであった。我々の得た結果はいずれも、血流ラグマップが直接には神経活動ではなく血流を反映すること、したがってその情報を持つsLFOというオシレーションも、自律神経ループなどに由来する全身性のものであるという仮説を支持するものである。本手法は非侵襲的な血流観察法として今後の展開が期待できるとともに、この情報を取り除くことによって、脳の働きを観察するツールとしてのfMRIの改良が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加齢バイオマーカーの発見という成果があり、主な目的である空間占拠性病巣の解析の精度を高める効用が期待される。 研究の対象となる疾患のMRIデータは、収集が進められているが、解析は来年度に持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
脳腫瘍や血管奇形の診断および予後予測を可能とする複合バイオマーカーの確立のため、7テスラ装置におけるMRスペクトロスコピーや定量的磁化率マッピング(QSM)の撮影が計画されているが、実施が遅れる見込みである。そのため教師あり機械学習などを用いたデータマイニング的アプローチも、まずは占拠性病変における血流ラグマップと、従来法の解剖学的イメージングが対象となる。 血流ラグマッピング法や、それに基づいて発表したバイオマーカーのさらなる改良のため、動物実験や、公開されているアルツハイマー病などの症例データによる解析も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
大容量メモリーを要するコンピュータワークステーションを整備する計画が、研究者の異動にともなって遅れたものである。引き続き、コンピュータシステムの構築に使用する。
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