研究課題/領域番号 |
19K09487
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
斎藤 清 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (00240804)
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研究分担者 |
佐藤 拓 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (00404872)
佐久間 潤 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (60305365)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 手術顕微鏡レーザー光源 / 2次元レーザー組織血流測定装置 / 手術中脳組織血流測定 |
研究実績の概要 |
脳神経外科手術後に予期せぬ合併症がおこることがある。特に脳虚血による脳梗塞がおこれば重大な後遺症を引き起こす。脳虚血の危険性予知と予防には脳組織血流量の測定が必要であるが、術中に臨床で使用できる有効な方法は海外を含めて報告されていない。一方、脳組織血流を測定できるlaser speckle blood flow imaging (LSBFI) が注目されている。これまでの報告では、手術のためのキセノン光源と脳組織血流の計測のための近赤外レーザー光という2つの光源が必要であり、LSBFIを計測するための独立した装置を術野に手術顕微鏡と干渉しないように設置し操作しなければならなかった。また、キセノン光源に含まれる近赤外領域の波長が、近赤外光を利用するLSBFIの測定に悪影響を与えている可能性があった。 そこで、我々が世界に先駆けて作成して上市した顕微鏡用のレーザー光源を用いて、手術中に顕微鏡下で脳組織血流量を測定する方法を確立することを目的とした。我々が開発したレーザー光源では青・緑・赤・近赤外光により可視光観察(青・緑・赤)と蛍光撮影(近赤外光)を可能にしている。本研究では、手術顕微鏡に2次元レーザー組織血流測定装置を装着し、近赤外光を用いて顕微鏡機能下に脳組織血流量を測定する。レーザー光源では青、緑、赤、近赤外光をそれぞれ狭い波長帯幅で照射が可能で、脳組織血流測定精度が向上する。手術中に脳血流量の絶対値が測定できれば、脳虚血などの合併症を回避できるのみでなく、脳組織血流量変化から脳機能を評価できるなど、新しい領域への発展も期待できる。 2019年度は、2次元レーザー組織血流測定装置を購入して手術顕微鏡に装着し脳表組織血流測定の条件を設定してファントムの測定を行い、臨床例での測定を開始した。2020年度は、臨床例を積み重ねて、脳表組織血流測定の有用性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
書面で同意をいただいた22例の開頭手術について、術中に脳組織血流測定を行った。このうち、2020年10月までの7例について解析した。対象は、もやもや病、未破裂中大脳動脈紡錘型動脈瘤、頭蓋内動静脈瘻の各1例と低悪性度神経膠腫と高悪性度神経膠腫の各2例。脳表血流計測は全例で可能だったが、高悪性度神経膠腫再手術の1例では脳表が硬膜に強く癒着し、剥離した脳表の血流計測値にばらつきが大きく、測定値が適切ではないと考えられた。それぞれ手術中に何度か血流を測定したが、1回の測定にかかる時間は平均5分で、全体として手術時間に影響した時間は 15分未満であった。 脳腫瘍の3例で計測した脳組織血流量は31.6~49.8(平均40.2)mL/min/100gであり、これまでの報告と矛盾なく、実際の値に近いと考えられる。また、腫瘍摘出後にも値に大きな変化はなく、術後にも虚血合併症はみられなかった。一方、もやもや病と動静脈瘻症例では、計測した脳組織血流量は20.0~24.1 mL/min/100gと低く、病態を反映していた。動静脈瘻症例ではシャント血流の遮断により脳組織血流量は24.1 mL/min/100gから41.2に上昇を認め、血行力学的動態の変化を捉えることができた。動脈瘤症例では、中大脳動脈瘤の中枢側を遮断することにより脳組織血流の低下が観察され、バイパス術により脳組織血流を維持できる事が確認された。また、レーザー光源によりインドシアニングリーン (ICG) の励起も可能であり、ICG蛍光血管撮影と脳組織血流計測も同時に可能であった。 レーザー光源を搭載した手術顕微鏡が術野の観察装置としての役割とLSBFI測定装置としての役割を同時に行う事が可能になり、顕微鏡の基本セットアップである側視鏡や対面鏡の搭載にも影響を与えることがなく、手術中に助手の積極的な参加を妨げることはなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、測定値精度の確認を行う。我々は、組織血流校正液を用いて補正しており、実際に測定した値は期待される脳組織血流の絶対値に近いと考えているが、絶対値の原器が無いので確認ができない。顕微鏡の焦点や倍率を変えた場合の影響については較正液を使用して補正式を求める事が可能である。手術中の脳組織血流は、全身麻酔や血圧、二酸化炭素分圧、脳温などの影響を受けるため、測定した値がどの程度正確なのか確認できない。そこで、脳表の温度も同時に測定し、手術中の脳表温度変化と脳表血流測定値の関係を確認し、さらに術中の心拍や呼吸による脳表の動きに対する補正についても検討する。また、我々のレーザー光源は近赤外光の波長帯域に余分な波長を含まないのでノイズが低減され解像度が高くなる可能性があるが、従来のキセノン光源とレーザー光源を使用した手法と比較してノイズが低減されているか検討する。 次のステップとして、脳の働きを脳組織血流量変化から評価できる可能性について検討する。覚醒下手術中に脳表血流量を測定し、言語機能など課題遂行にどの部分の脳が活動しているか血流量から確認できるかを解析する。また脳腫瘍摘出前後の脳血流量を解析し、術後の脳機能回復の予測が可能かを検討する。さらに、顕微鏡下で観察している脳の組織血流量を手術終了までモニターすることで、温度、光、乾燥など手術環境が脳組織血流量に与える影響を評価する。 また、我々の開発した蛍光血流と可視光術野が同時に見えるカメラシステムに、組織血流2次元画像を融合表示するシステムを開発する。モニター上に可視光/蛍光画像と組織血流2次元画像を融合表示することで、より高精度に脳血流を評価できる。顕微鏡の通常術野および蛍光血管画像に組織血流2次元画像が同時表示されることで、形態・血流・機能などの情報を確認しながら手術が可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果発表の国内旅費を計上していたが、新型コロナウイルス感染の影響で予定していた学会がweb開催になった。このため、学会参加費のみを計上している。 現在、成果を発表するための論文を作成しており、次年度は論文投稿と、新型コロナウイルス感染の状況が許せば国内および海外学会での発表のために使用する計画である。
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