抗てんかん薬をevidenceに基づいて投与を行えば、悪性神経膠腫患者の延命効果に繋がるのではないかと考えている。そこで悪性神経膠腫細胞株を用いて、抗てんかん薬の抗腫瘍効果やその作用機序を検討するとともに、化学療法施行時などにおける最善の投与方法を模索し、治療成績の向上のための基礎的研究を行ってきた。 (1)抗てんかん薬の抗腫瘍効果:標準的化学療法薬であるTMZと抗てんかん薬との相乗的な抗腫瘍効果を示唆する報告がある。悪性神経膠腫細胞株 (6種)を用いて、標準的な抗てんかん薬の抗腫瘍効果に対して検討を行ったところ、1)VPAとPERにおいて濃度依存的に細胞増殖抑制効果がみられた。また、2)TMZとの併用投与によりLEVとPERにおいて相乗効果が認められた。(2)AMPA受容体非競合的拮抗剤の抗腫瘍効果:AMPA受容体非競合的拮抗剤である talampanelにおける臨床試験では、生存期間の延長が報告されている。そこで作用機序が同様のPERをさらに検討したところ、細胞周期の停止ではなくapoptosisの誘導による抗腫瘍効果が確認された(FACSやWestern blot)。(3)細胞遊走能・浸潤能における効果:予後不良因子として、高い増殖能と高い浸潤能がある。そこで検討をおこなったところ、1)PERでは遊走能の抑制が確認された。さらにPERにより、2)細胞の遊走や浸潤に重要なプロセスであるEMTに関連する因子について検討したところ、細胞骨格を再構築して細胞の運動性を亢進させるRac1、RhoAや間葉系マーカーであるN-cadherinやMMP-2の発現が低下した。一方、細胞間接着性を強固にして運動性を低下させる上皮系マーカーであるE-cadherinの発現は亢進していた。 以上、悪性神経膠腫に対する治療において、PERは他の抗てんかん薬と比べて有益に働く可能性が示唆された。
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