研究課題/領域番号 |
19K09501
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
工藤 琢巳 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 非常勤講師 (90632125)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 悪性髄膜腫 / 糖代謝 |
研究実績の概要 |
本研究目的は、分子細胞生物学的手法を用いて、悪性髄膜腫の発生、発育機序を明らかにし、新たな治療標的を同定すること、及び悪性髄膜腫の動物モデルを作成することである。先行研究により良性髄膜腫と悪性髄膜腫の摘出標本における全遺伝子の発現状況を解析した結果、もっとも悪性髄膜腫に影響を与える遺伝子として解糖系酵素であるPGK1(Phosphoglycerate Kinase 1)が同定された。PGK1は多くの悪性腫瘍においてその発現が亢進し、また強力な予後不良因子である。またPGK1の発現抑制した悪性髄膜腫細胞は細胞増殖が抑制された。さらに遺伝子発現状況をもとにしたfunctional analysisではミトコンドリアの機能障害が示された。以上の結果から、PGK1の過活動およびミトコンドリアの機能障害による解糖系への代謝シフトが悪性髄膜腫の発生に関与している可能性が示唆される。 悪性髄膜腫から樹立された細胞株に対してPGK1発現を抑制すると、細胞増殖が鈍化しまたcolony formationも弱まった。一方でGateway technologyを用いて過剰発現細胞株を作成するとcolony formationが強まった。現在低酸素状況下ではより一層PGK1の発現により細胞の表現型に変化が得られている。 さらにエネルギー代謝についての解析を行うにあたり、低酸素状況およびPGK1の発現抑制細胞株を用いて、メタボローム解析を行うべくサンプル調整を行い、すでにHuman Metabolome Technologyにサンプルを提出しており解析待ちの状態である。 またCRISPR-dCas9を用いて発現抑制細胞株を同時に作成中であり、また動物実験の条件検討を行っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、悪性髄膜腫から樹立された細胞株に対してPGK1発現を抑制すると、細胞増殖が鈍化しまたcolony formationも弱まった。一方でGateway technologyを用いて過剰発現細胞株を作成するとcolony formationが強まった。低酸素状況下ではより一層PGK1の発現により細胞の表現型に変化が得られている。さらにエネルギー代謝についての解析を行うにあたり、低酸素状況およびPGK1の発現抑制細胞株を用いて、メタボローム解析を行うべくサンプル調整を行い、すでにHuman Metabolome Technologyにサンプルを提出しており解析待ちの状態である。またCRISPR-dCas9を用いて発現抑制細胞株を同時に作成中であり、また動物実験の条件検討を行っているところである。 CRISPR-dCas9を用いた発現抑制細胞株作製については、gRNAの標的箇所としてpromoter領域に3か所を設定してplasmidを作製した。そのうちの1つでPGK1の発現が90%程度抑制されたことを確認したが、数回継代すると細胞死が誘導され、生存した細胞ではすでにPGK1の発現抑制が認められなくなっていた。PGK1は解糖系酵素であり十分な発現抑制によりエネルギー代謝障害が生じることが予想され、恒常的な発現抑制株の作製が困難である可能性が示唆された。 当初恒常的な発現抑制株と過剰発現株を用いて表現型解析を行うこととしていたが、発現抑制株作製が困難である可能性が示唆された。条件検討を行うが、恒常的発現抑制株作製が困難だった場合は発現抑制はsiRNAを用いた一過性の発現抑制系を用いて代用することとする。また動物実験は恒常的な過剰発現株を用いて行うこととする。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り恒常的発現抑制株作製は困難となる可能性があり、siRNA法を用いた一過性の発現抑制によって代用する可能性がある。もともと動物実験では過剰発現細胞株を用いた薬剤投与実験を主として計画しており、実験計画としては概ね順調に進展していると考えている。今後の研究は当初の計画通り、代謝シフトをぞ害する薬剤の探索、発現抑制および過剰発現細胞株を用いた表現型解析の継続、動物モデル作成の継続を行う。またメタボローム解析結果によっては新たな研究標的、治療標的が同定される可能性がある。 現在PGK1の阻害剤作製を他研究室に依頼しており、可能であれば薬剤投与実験をまずは細胞株を用いて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験費用の全てが実験に使用する物品費に使用した。実験結果がまだ十分にそろっておらず、学会発表や論文執筆は行っていない。概ね予定通りの使用額であり、次年度使用額はわずかである。そのため翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画も、大幅な変更なく、当初の予定通り実験を遂行する予定である。
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