研究実績の概要 |
本研究では、リプログラミング技術を用いて非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(atypical teratoma/rhabdoid tumors: AT/RT)のエピゲノム異常の解明と新規治療開発を目的とした。AT/RTは、INI-1遺伝子の不活化がドライバーであるが、その他の遺伝子変異は少なく、INI-1不活化からAT/RT発生に至るメカニズムや起源細胞は明らかでない。リプログラミング技術は、がん細胞のゲノム初期化から発がんメカニズムにおけるエピゲノム異常の解析に有用である。本研究では、INI-1不活化に伴うエピゲノム異常がAT/RTの発生メカニズムであるという作業仮説の上に研究を進めた。樹立したTP53-/-, INI-1-/-ヒト人工多能性幹細胞をマウス脳内移植で作出したAT/RT腫瘍細胞の初代培養を行い、ヒト人工多能性幹細胞由来のヒトAT/RT細胞株を樹立した。CRISPR/Cas9レンチウイルスシステムによる網羅的な遺伝子阻害スクリーニングから、AT/RT腫瘍形成に必須となる分子として同定したRAD21の機能解析と薬剤開発を行った。RAD21はコヒーシンを形成するサブユニットであり、細胞分裂に関わる。RAD21の発現阻害では腫瘍の増殖抑制が認められた。そこで、RAD21の特異的な阻害薬の開発として、樹立したAT/RT細胞を用いたRAD21に対するドラッグスクリーニングシステムを開発した。しかし、樹立したAT/RT細胞に対する特異的なRAD21阻害剤の同定には至らなかった。Phelan-McDermid syndromeを有するAT/RTにおいて、環状22番染色体異常に加えて、全ゲノム解析から腫瘍進展に伴ったINI-1遺伝子の体細胞変異(p.R201X) 、22番染色体全欠失、 BRCA2 遺伝子の変異, 6番染色体長腕欠失、14番染色体長腕増幅を検出した。AT/RTのエピゲノム異常から遺伝子異常の蓄積がAT/RTの発生、悪性化機構に関わることが明らかにした。
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