研究課題/領域番号 |
19K09511
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中村 晋之 九州大学, 大学病院, 助教 (80713742)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ペリサイト / 細胞外マトリックス / 脳梗塞 / 組織修復 / 血液脳関門 / 慢性虚血 / 再髄鞘化 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は脳血管障害における組織修復・機能回復を明らかとすることである。まず、基底膜を構成する細胞外マトリックス(ECM)蛋白perlecanに着目し、perlecan knockout (KO)マウスを用いて脳梗塞モデルにおける組織修復過程を検討した。Perlecan KOマウスでは脳梗塞のサイズおよび血液脳関門(Blood-brain barrier: BBB)の破綻の増悪がみられた。一方、脳梗塞後に生じるペリサイトの遊走・集蔟が抑制され、組織修復におけるペリサイト活性化にperlecanが関わっていることが示唆された。さらに、PerlecanのC末端側フラグメントであるdomain V (DV)が、ペリサイト遊走をもたらすことを明らかとした。さらに、脳梗塞後にperlecan DVを投与すると投与蛋白は梗塞巣に蓄積し、梗塞サイズの縮小やペリサイト活性化がもたらされる可能性が示唆された(Nakamura, J Cell Biol 2019)。 一方で、我々は脳梗塞組織修復過程においてペリサイトによるアストロサイトの活性化、オリゴデンドロサイト前駆細胞(oligodendrocyte precursor cell: OPC)分化による再髄鞘化が重要であること(Shibahara, eNeuro 2020)、さらにペリサイトとの相互作用により、マクロファージによるミエリンデブリスの貪食が促進され、組織修復が促進されることを報告した(Shibahara, Stroke 2020)。これら一連の細胞間相互作用には種々のECM蛋白が関与している可能性が考えられ、現在検討を行っている。 近年、慢性脳虚血に伴う大脳白質病変の病態や認知症においても、ペリサイトの脱落・変性が関与していることが注目されている。慢性脳虚血の病態で同様の機序による組織修復が起こりえるのではないかと考え、現在、クプリゾン投与による慢性脳虚血モデルにおける再髄鞘化について検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.BBB破綻後の修復機構の解明:脳梗塞後のBBBの破綻、ペリサイト活性化、修復機構の促進などに及ぼすECM蛋白perlecanの影響について検討した。Perlecan KO マウスでは脳梗塞のサイズおよびBBBの破綻の増悪がみられた。一方、perlecan KOマウスでは、脳梗塞後に生じるペリサイトの遊走・集蔟が抑制され、perlecan C末端側フラグメントであるdomain V (DV)が、ペリサイト上のintegrin α5を介して接着およびPDGFシグナルの活性化をもたらし、ペリサイト遊走をもたらすことを明らかとした。さらに、脳梗塞後にperlecan DVを投与すると投与蛋白は梗塞巣に蓄積し、梗塞サイズの縮小やペリサイト活性化がもたらされる可能性が示唆された(Nakamura, J Cell Biol 2019)。一方で、脳梗塞組織修復過程においてペリサイトによるアストロサイトの活性化、OPC分化による再髄鞘化が重要であることを報告した(Shibahara, eNeuro 2020)。さらに、ペリサイトとの相互作用により、マクロファージによるミエリンデブリスの貪食が促進され、組織修復が促進されることを報告した(Shibahara, Stroke 2020)。これらの一連の細胞間相互作用には種々のECM蛋白が関与している可能性が考えられ、現在検討を行っている。 2.BBB修復薬の開発:現在、ペリサイト活性化をもたらすperlecanフラグメント蛋白の作成を行い、in vitroでの活性を検討している。 3.慢性脳虚血モデルにおけるperlecanの役割:慢性 脳虚血の病態で同様の機序による組織修復が起こりえるのではないかと考え、現在、Perlecan KOマウスを用いて慢性脳虚血モデルにおける表現型の違いについて検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
急性期脳梗塞に対する血管内治療やrt-PA静注療法などの急性期治療は近年目覚ましい進歩を遂げ、救命率の向上や後遺症の軽減がもたらされているものの、脳 血管障害は未だ死因の多くを占め、寝たきりとなり介護を必要とする最大の要因である。これまでの脳梗塞に対する基礎研究では神経保護を目的とした薬剤の開発が主体であったが、近年neurovascular unit全体の相互作用に着目した治療法の開発が求められている。我々が取り組んでいるペリサイト-アストロサイト-OPC連関の概念は脳梗塞組織修復の機序を語る上で鍵となると考え、現在種々の方面からのアプローチを行っている。 また、各細胞間に存在するECMに着目した研究はこれまでほとんど無く、臨床応用には至っていない。 現在、1. 各ECMが細胞間相互作用にどのような役割を担うのか、2. ECM蛋白のどの部分に細胞活性化をもたらす作用があるのか、さらに3. ECMフラグメントが各細胞・脳組織にどのような影響をもたらしうるか、などの問題を明らかとするための検討を進めているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大のため動物実験施設業務の縮小、研究活動に対する制限があり、予定通りの実験計画を進めることができなかった。今後は感染状況を見ながら研究活動を加速して行う。
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