研究課題/領域番号 |
19K09516
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
高橋 里史 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (20383870)
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研究分担者 |
荒井 信彦 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (80793801) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | くも膜下出血 / 早期脳損傷 / 脳血管内皮細胞 / マイクロRNA / Neurovascular Unit |
研究実績の概要 |
くも膜下出血後の早期脳損傷(Early Brain Injury; EBI)の結果としてNeurovascular unit(NVU)が崩壊していることが確認されているくも膜下出血モデルマウスとコントロールマウスのそれぞれからくも膜下出血後72時間の時点で脳毛細血管内皮細胞を単離、RNAを抽出し、マイクロアレイ解析を行いくも膜下出血の影響を受けて脳毛細血管内皮細胞において発現が低下する10個の遺伝子を同定した。 一方、くも膜下出血患者血液中において、コントロール群である未破裂脳動脈瘤患者血清中と比べて発現が上昇していたマイクロRNAのうち、発現量の絶対値が多い方から10個を選び、ネット上のデータベースであるTarget scanを用いた標的遺伝子の検索を行い、前述の研究結果において脳毛細血管内皮細胞で発現が低下している遺伝子を標的としているか否かを検討した。 Target scanを用いた解析の結果、患者血液の解析から同定されたあるマイクロRNAは内皮細胞の遺伝子発現解析で同定された10個の遺伝子のうちの3つの遺伝子を標的としていた。また、その他6つのマイクロRNAが2つの脳毛細血管内皮細胞で発現変化のある遺伝子を標的としていた。反対にSAHを生じた内皮細胞において発現が低下していることが明らかになった2種類の遺伝子はSAH患者血清の解析から同定された4つのそれぞれ異なるマイクロRNAから標的とされていた。 上記と並行して、臨床症例におけるEBIの影響を強く受けた症例の同定を目指した臨床研究を行った。具体的には自験のSAH臨床例を発症時の臨床所見およびコンピュータによるテクスチャー解析という2つの異なる視点で解析し、それぞれくも膜下出血の発症時において予後を感度・特異度ともに高く予測可能なEBIの程度を反映していると考えられるパラメータを明らかにし論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は概ね順調に経過している。今後継続してこれまでに同定したマイクロRNAおよび遺伝子の機能解析と、臨床マーカーとしての応用の可能性を評価していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果から同定したマイクロRNAは末梢血中のEBIマーカーとして応用できる可能性がある。また、同定した遺伝子のうちのひとつはその既知の機能から活性酸素の発生を介してEBIを助長している可能性があり、SAH後の虚血性脳障害に対する治療標的となる可能性がある。これらの仮説を明らかにする目的で以下の研究を計画している。 同定したマイクロRNAの末梢血中のEBIマーカーとしての応用の可能性:既に論文発表したEBIの程度を反映していると考えられる2つのパラメータをリファレンスとして、同定したマイクロRNAのEBIに対する臨床マーカーとしての有用性をその感度・特異度の観点から、検討する。また前方視的に発症後経時的にSAH患者体液の提供を受け、経時的な臨床症状及び画像所見(脳血管攣縮の有無や脳梗塞の有無)と比較することで病勢を反映したマーカーとしての有用性を検討する。病勢を反映したマーカーとして有用であれば新規脳保護療法の効果を検討する際の評価項目としても使用可能と考える。 同定した遺伝子の発現及び機能解析:遺伝子の脳内での発現(内皮細胞以外)を明らかにするとともに、脳毛細血管内皮細胞における機能解析を行う。発現解析に関してはウエスタンブロットを行いタンパクレベルでもその発現がSAH後に低下していることを確認する。SAHモデルマウスと、コントロールマウスの脳切片において、蛍光免疫染色を行い、内皮細胞以外の脳内局在と発現変化を明らかにする。機能解析はsiRNAを準備し、マウスの脳毛細血管内皮細胞に作用させることで内皮細胞の形態及び増殖能の変化の有無を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は概ね予定通りに進んでいるが、一部のマイクロアレイ解析、siRNAを用いたノックダウンの研究等、経費がかかる研究を次年度以降に行うことになったため次年度使用額が生じた。
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