研究課題/領域番号 |
19K09518
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
小澤 達也 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (80296483)
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研究分担者 |
金子 修三 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (10777006)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳腫瘍 / 上衣腫 / 融合遺伝子 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
2019年度は、RELA融合遺伝子の転写標的遺伝子の同定を目的に、マウス上衣腫より樹立した2つの脳腫瘍細胞を用いて転写活性化のマーカーであるH3K27acに対するChIP-seq解析を行ない、転写活性化状態や転写活性化領域の検討を進めた。その結果、2つの上衣腫細胞に共通した多くの転写活性化領域が遺伝子プロモーターやエンハンサー部位に同定された。続いて、RELA融合遺伝子の転写標的遺伝子との関連性を検討したところ、興味深いことにそれらのほとんどが転写活性化状態であることが明らかとなった。そこで、RELA融合遺伝子による標的遺伝子の直接的な転写制御のさらなる検討を行った。標的遺伝子におけるRELA融合遺伝子のDNA結合部位に対して、CRISPR/Cas9法を用いた物理的なRELA融合遺伝子-DNA間の結合妨害を行ったところ、その標的遺伝子の発現抑制が観察され、RELA融合遺伝子による直接的な転写制御が確認された。 次に、これらのRELA融合遺伝子の転写標的遺伝子の脳腫瘍形成における機能、寄与やスクリーニングにより同定された薬剤の抗腫瘍効果の検討を行うために、免疫不全マウスを用いたマウス上衣腫細胞の脳移植モデルの作成を試みた。移植後に生体内観察を行うために、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したマウス上衣腫細胞を作成し免疫不全マウスの脳に移植した。移植の早期にはIVISでの観察によりルシフェラーゼ遺伝子の高いシグナルが観察され、移植細胞の移植部位での生着が観察された。しかし、その後、多くの例において持続的な一定した腫瘍の発育や増大は得られなかった。このため引き続き、移植モデルの確立を目指して検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、実験提案書に記載の研究計画に沿って実験は進められ、概ね計画通りに進行しているものと思われる。2019年度の主要な研究課題であるH3K27acに対するChIP-seq解析を行い貴重な研究結果を得ることができ、RELA融合遺伝子の転写標的遺伝子の同定に大きなステップとなった。また、実際にCRISPR/Cas9法を用いた検討によりRELA融合遺伝子の転写因子としての機能の確認をすることができた。 次年度は引き続き、これらの研究成果をもとにRELA融合遺伝子陽性上衣腫に対する治療標的の同定を達成すべく研究を加速させていく。 一方で、薬剤投与実験目的に確立を目指した上衣腫の移植モデルは、予想に反してマウス上衣腫細胞の免疫不全マウス脳への生着は不安定であり、多くの例において一定の脳腫瘍の形成や発育は得られなかった。今後も、研究計画の多くの実験ために、安定した腫瘍の形成が見られるモデルシステムの確立は必要であり、様々な手法や実験条件の検討の上、モデルの作成や改善を試みて行く。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果を踏まえて、引き続きRELA融合遺伝子による上衣腫形成や維持の分子メカニズムの解明と治療標的の探索を目指して、その中心的な役割をなしていると考えられるRELA融合遺伝子の転写標的遺伝子の同定や選択を進めて行く。そして、これらの一連の解析の中でその有力な候補となる標的遺伝子の同定ができた場合には、その目的の遺伝子に対するヒトやマウス上衣腫における遺伝子発現検討を行う。また、上衣腫細胞や上衣腫モデルにおいてその目的遺伝子の過剰発現や機能の抑制等を行い、表現型の変化や脳腫瘍誘導能に対する影響や抗腫瘍効果を観察し、最終的に治療標的としての可能性を決定する。 前臨床試験には安定した腫瘍の発育が得られる上衣腫の移植モデルの確立が必要である。このため、これまでの移植モデルの作成における実験条件の改善や新たな細胞株の試み等により脳移植モデルの改善を進めて行くとともに、皮下移植モデルの作成等、様々な可能性を検討してその確立を目指して行く。そして、安定した移植モデルが確立できた場合には、これまでの研究成果より同定された治療標的に対して、関連する薬剤や目的の遺伝子機能の制御などの手法を用いた前臨床試験の立案と実施や、そしてさらには、最終的に臨床応用を目標としてヒト上衣腫形成に対して影響を与えうる手段の開発を目指して研究を進めて行く。また、このように研究計画の確実な遂行とともに得られた研究成果の学会や論文での公表を目指して準備を進めて行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度も引き続き、RELA融合遺伝子陽性上衣腫に対する治療標的の探索研究を進めるために、細胞培養、遺伝子発現ベクターの作成、DNAシーケンス解析、細胞内遺伝子導入、腫瘍や培養細胞よりのタンパク、DNA、mRNAの抽出や目的分子の発現解析、免疫染色等のための実験消耗品の購入が必要となる。また、上衣腫マウスモデルの確立とそれらを用いた薬剤投与実験を行うために、マウスの購入やその維持費用に加えて投与薬剤の購入費用が予定されている。そして、得られた研究成果を学会や論文で発表を行うための学会参加費、旅費や論文投稿費等の諸経費が見積もられている。
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