上衣腫は小児や若年成人に好発する中枢神経系原発性悪性腫瘍であり有効な治療法の開発が必要とされている。昨今の大規模遺伝子解析により、テント上上衣腫の多くにC11orf95-RELA融合遺伝子(RELAFUS)が同定され、実験的に強力な癌遺伝子であることが明らかとなった。従って、RELAFUSによる腫瘍発生機序の解明は上衣腫の治療標的の同定に必須である。本研究では、RELAFUSの転写標的遺伝子の同定を通じて上衣腫発生機序の解明を行った。はじめに、マウス上衣腫細胞とヒトRELAFUS発現細胞を用いてRELAFUS とH3K27acに対するChIP-Seq解析を行い、RELAFUSに特異的なDNA結合領域を同定した。そして、関連する多くの標的遺伝子が転写活性化状態であり、実際にヒトやマウス上衣腫でこれらの遺伝子発現の上昇が観察された。続いて、転写因子モチーフ解析により、RELAFUSはC11orf95部分により認識される特異的なGC-richモチーフを通じて標的遺伝子に結合し、約半数の標的遺伝子の結合領域にこのモチーフの存在が明らかとなった。実際に、レポーターアッセイにてRELAFUSがこのモチーフを認識し標的遺伝子発現を制御すること、また、RELA部分がその転写活性制御に必須であることが確認された。さらに、RELAFUS標的遺伝子には、non-canonical NF-κB結合部位を介したRela標的遺伝子も同定された。そして、マウス上衣腫細胞を用いた抗がん剤スクリーニングにより、RELAFUSの腫瘍発生機序に関連した経路を抑制する薬剤の有効性が示された。以上より、RELAFUSはC11orf95とRELAの双方の標的遺伝子の協調により形成された異常なシグナル経路により上衣腫を誘導していたことが明らかとなった。本研究の成果は、今後の抗上衣腫薬の開発に役立つことが期待される。
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