研究課題
【背景と目的】髄芽腫において、脂質代謝が重要な働きをすることが報告されるようになってきている。しかし、多くの代謝因子は髄芽腫の分子分類ごとに働きが異なり、共通の因子は少ない。また、脂質代謝因子の腫瘍に与える影響について、詳細な分子メカニズムは解明されていない。そこで、本研究では、髄芽腫発生と悪性化における脂質代謝の役割を明らかにすることを目的とした。【方法】髄芽腫のすべての分子分類に共通する代謝因子は、脂肪酸合成に関わるSCD、FASNなどごく一部に限られており、それらの制御因子であるmiR-33aに着目した。Ptch1ノックアウトマウス(Ptch1+/-)はSHH型髄芽腫の自然発生モデルであるが、miR-33aのノックアウトを交配することで、腫瘍の発生や悪性度に変化が見られるかどうかを検討し、抗腫瘍免疫への影響を含めて、miR-33a欠損の影響を受ける分子について解析した。【これまでに得られた結果】Ptch1+/-に比べて、ptch1+/-; miR-33a-/-では腫瘍の発生頻度が有意に高かった。また、採取した細胞を免疫不全マウスに移植したところ、後者で有意に生着率が高かった。病理学的検討では、後者の腫瘍で浸潤性が高く、転移を認めることが示された。トランスクリプトーム解析で、miR-33a欠損によりSCD1の発現が有意に上昇することが示された。その他にPDGFRAの発現上昇が認められており、これらの分子と腫瘍の悪性度、浸潤のとの関連性について分析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
Ptch1+/-の腫瘍発生の観察期間は1年が必要で、同観察期間を終えて、miR33aノックアウトによる腫瘍発生頻度の上昇を示すことができた。また、皮下での培養に成功し、免疫不全マウスのみならず、野生型のマウスを用いた腫瘍モデルも確立した。当初予定していなかったトランスクリプトーム解析も行い、有意に変化する分子の特定にも成功し、予定以上の成果を上げている。また、miR-33a以外の脂質代謝因子として、近年種々の癌で重要な働きをしていることが報告されているRNF213に着目し、同遺伝子のノックアウトによる腫瘍の発生や悪性化についても同様の解析を行った点も、予定以上である。一方、当初はモデルマウスから発生した腫瘍をin vitroで培養し、担癌マウス由来のリンパ球による免疫反応の違いを検討する予定であったが、in vitroの培養が困難で、確立しておらず、同実験計画は遂行できていない。その確立のために現在種々の培養方法をテストしている。
トランスクリプトーム解析で得られた分子について阻害実験やレスキュー実験を行い、miR-33a、RNF213遺伝子と関連する分子の関与を明らかにする。これらについて論文の作成を行う。また、in vitroモデルを確立し、miR-33aやRNF213遺伝子欠損が免疫反応に及ぼす影響を明らかにする。
出張の予定がキャンセルとなったため
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Medical Science Digest
巻: 46 ページ: 488-489