研究課題/領域番号 |
19K09543
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
榎本 光裕 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 非常勤講師 (90451971)
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研究分担者 |
辻 邦和 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座准教授 (20323694)
大川 淳 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (30251507)
平井 高志 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (40510350)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 神経障害性疼痛 / 末梢神経損傷 / 後根神経節 |
研究実績の概要 |
緊急事態宣言に伴う研究活動制限によって実験に必要な遺伝子改変マウスが必要数得られなかった。そのため今年度は、ワイルドタイプのマウスを用いて神経障害性疼痛モデルを作製し、疼痛に応答する後根神経節(DRG)のニューロン、グリア細胞の形態変化に注目して組織学的に検討した。 8週齢マウスの左脛骨神経と総腓骨神経を切断し腓腹神経を温存したSNIモデルマウスを作製した。モデル作製後3週で潅流固定を実施し、両側第3(L3)、第4腰部(L4)DRGを摘出した。DRGを凍結し切片を作製し、各面積をImageJで定量した。また、DRG neuronに対して抗PGP9.5、DRGに近接するsatellite glial cells (SGC)に対して抗Glutamine synthetase(Gl Syn)抗体を用いて二重免疫染色し、陽性細胞数をそれぞれ定量した。損傷側と対側健常側のDRGを比較した。 解析結果としてL3DRG面積は、SNI側と対側に差がなく、L4DRGのSNI側で少ない傾向であった。PGP9.5陽性細胞数は、L3DRGではSNI側と健常側で統計学的な有意差はなかった。一方、L4DRGはSNI側で有意に減少していた。Gl Syn陽性細胞数は、L3DRGで健常側と比較してSNI側で有意に多かった。L4DRGは統計学的に有意差を認めなかった。 マウス坐骨神経切断後1週で24%、4週間で54%のDRG neuronが減少すると報告されている(Shi et al. Neuroscience 2001)。本研究では損傷3週で腓腹神経を残しているものneuron数は減少しており、今後、長期経過での解析が必要と思われた。SGCは神経障害側での細胞数増加を認め、神経損傷に応答した変化と思われる。よってDRG neuronの減少とSGCの活性増加が神経障害性疼痛の要因となる可能性があると思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度、遺伝子改変マウスを用いた安定したソーティング技術の確立を課題にしていたが、緊急事態宣言での研究活動制限、動物実験飼育室使用制限があったため必要量の遺伝子改変マウスが得られなかった。 今年度はワイルドタイプマウスを使用して、神経障害性疼痛モデルを作製した。疼痛モデルの作製、知覚テスト、組織単離、切片作製は安定して実施できている。今年度、ソーティングによるRNA解析の進捗はなかったが、免疫染色による組織解析で神経障害側でのDRGニューロンの減少とサテライトグリアの増加が確認できた。L3、L4レベルによって神経障害に対する反応が異なっていることも明らかとなった。細胞ソーティングの際には腰椎レベルごとに個別に回収する必要があると考えられた。 また、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対する受容体に蛍光色素が結合した遺伝子改変マウスの譲渡を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
SOX10-Venusマウスは、シュワン細胞に蛍光色素が発現するシステムである。同マウスを用いて左腓腹神経を切断した神経障害性疼痛モデルを作製する。両側のDRGを採取して、蛍光色素であるVenousに対するソーティングを実施し、サテライトグリアを単離する。ソーティングした細胞からRNAを抽出し、過去に報告した候補遺伝子プロファイルからプライマーを設計し、RT-PCRによる解析を行う。正常側と損傷側で比較することでグリアに発現する神経障害に特異的なマーカーを探索する。 同様の手法を用いて準備中の血管内皮細胞増殖因子に対する受容体Fltに蛍光色素が結合した遺伝子改変マウスでも解析を進める予定である。 これら研究計画によって慢性疼痛期でDRGの非神経細胞の役割を明らかにすることができる。 神経障害性疼痛に特異的な候補遺伝子が特定できた場合、新規核酸医薬であるヘテロ核酸(HDO)を作製して、疼痛慢性期に静脈あるいはクモ膜下注射によって非神経細胞での遺伝子制御を行う。HDO投与前後、経時的に行動学的評価を行うことで有効性を確認する。 一定の成果に対して学会発表および論文作成をおこなう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物の購入、飼育費用が主となっている。モデル作製や行動解析は、すでに購入した物品もあり比較的安価で実行できた。多くのサンプルを採取したが、冷凍保存しているものも多い。免疫組織染色に伴う試薬、抗体は既存製品の使用も可能で分子生物学試薬の消耗品が少なかった。また、政府による二回の緊急事態宣言によって学会活動が制限された影響もあった。
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