研究課題/領域番号 |
19K09555
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
白石 大偉輔 熊本大学, 病院, 非常勤診療医師 (70769512)
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研究分担者 |
菰原 義弘 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (40449921)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マクロファージ / 腫瘍 / CD163 |
研究実績の概要 |
近年、マクロファージの活性化機構には、古典的活性化経路(M1)とオルタナティブ活性化経路(M2)が存在することが知られている 。M1/M2 マクロファージは、それぞれに表現形質も異なっており、M1マクロファージではTLR2やTLR4等の発現が亢進し、M2マクロファージではCD163やCD204の発現が増強する。しかしながら、これらの表現形質が、それぞれのマクロファージの機能に果たす役割については不明な点が多く、特に、ヘモグロビンスカベンジャー受容体であるCD163のM2マクロファージにおける機能に関しては、 ほとんど明らかにされていない。本研究ではM2マクロファージで誘導されるCD163の腫瘍免疫における役割を調べることで、CD163の新たな機能ならびにガン病態への関わりを解明し、将来的に臨床応用可能なマクロファージの活性化制御に基づく新規治療戦略の一助にすることを目的とする。 本年度は骨肉腫(AXT細胞)移植モデルマウスにおけるCD163の腫瘍進展に与える影響について評価したところCD163 KOマウスではWTマウスと比較して腫瘍進展が促進した。本研究結果は、これまでの肉腫、卵巣癌、肺癌等での検討結果と全く異なり、CD163が骨肉腫においては腫瘍進展抑制に機能する可能性がある興味深い結果が得られた。また、CD163の腫瘍細胞の生着に与える影響を評価したところ、WTマウスではCD163 KOマウスと比較して骨肉腫細胞(AXT細胞)の生着が抑制されたことから、マクロファージのCD163が骨肉腫においては腫瘍形成の初期段階において抑制的に機能している可能性が示唆された 。さらに、CD163発現制御化合物の抗腫瘍作用の検討において、生薬「イカリソウ」由来化合物がCD163の発現を制御(抑制)することで肉腫における腫瘍進展に対して抑制的に作用することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実験計画における大きな目標としては、マクロファージのCD163の骨腫瘍増殖・進展に与える影響をマウス移植モデルにて評価することであった。本計画の進展度としては、CD163 KOマウスでは骨肉腫(AXT細胞)移植モデルでの腫瘍進展(腫瘍重量・主要サイズ)が促進され、皮下腫瘍における腫瘍の活性化マーカーであるpSTAT3陽性細胞指数がCD163 KOマウスにて増加していたことから、マクロファージのCD163が骨肉腫(AXT細胞)においては腫瘍の進展・増殖に抑制的に機能している可能性が示唆された。また、マクロファージ活性化制御する生薬「イカリソウ」由来のフラボノイド化合物であるEpimedkoreanin Bが肉腫移植モデルマウスにおける皮下腫瘍の進展を有意に抑制し、さらに、Epimedkoreanin B投与群ではマクロファージの活性化を制御することで、ガンにおける抗腫瘍免疫の低下を抑制していることを明らかにした。このEpimedkoreanin Bによるマクロファージの活性化制御を介した抗腫瘍作用に関しては学術論文にて報告した。ゆえに、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まずは骨肉腫細胞(AXT細胞)の培養上清刺激によるマクロファージの活性化マーカー(CD163, CD206, CD169)発現への影響や、それらの発現に関与する転写因子であるSTAT3やSTAT1等の活性化を評価する。また、CD163WT/KO のマクロファージと骨肉腫細胞株を共培養し、BrdU取り込みアッセイにて、CD163の腫瘍細胞の増殖に与える影響を評価するともに、共培養上清中のサイトカインやケモカイン量をELISAにて評価することで、CD163がマクロファージや骨肉腫細胞の活性化ならびに腫瘍免疫に及ぼす影響を評価する。さらに、CD163に作用する化合物(CD163抑制化合物・CD163誘導化合物)の肉腫・骨肉腫細胞に対する作用の評価ならびに、腫瘍移植モデルマウスにおける効果の検証を行うことで、将来的に臨床応用可能なマクロファージの活性化制御に基づく新規治療戦略の基礎的知見を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 新型コロナウイルスの影響で、1月から3月にかけて、主に臨床業務を行わなければならず、研究時間を確保できず十分な研究が行えなかったため次年度使用額が生じた。 (使用計画) 停止していた実験も行えるようになってきたため次年度の研究実施にあたって支障はない。
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