我々は、慢性に経過する腰痛患者には、ストレスを含む心理・社会的因子の関与や脳で痛み認知が関与していることを明らかにし、1996年から他職種による集学的治療を行なっている。様々な要因のどの要因が痛みの慢性化に影響を及ぼすのか、また予測因子となり得るのかを解析することが必須であるが、慢性腰痛患者の背景が様々であることから、対象者の集積とともに、共通項目での評価には時間を要する。慢性化の要因を検証できる観点から、腰椎疾患に対するストレスの関与を検討することを目的とし、本研究では腰痛をきたす代表的な疾患である腰椎椎間板ヘルニアの動物疾患モデルを用いて、疼痛関連行動と中枢神経でのストレスの影響について検証する。さらに、疼痛関連行動のみならず、マイクロダイアリシス法による脳内疼痛関連物質の定量を組み合わせることで、多面的な評価により慢性化の病態を検討した。 実験系は、髄核留置(NP)モデルとシャム(S)モデルを作成し、それぞれにストレス負荷として、拘束負荷(RS)の有無別に4群を設定した。本疾患モデルの行動評価は、機械的刺激 (von Frey法)、シャトルメイズ、高架式十字迷路、加圧試験(ランダルセリット法)での4種類の評価を行なった。ストレス負荷なしのNP群とS群の比較では、機械的刺激 (von Frey法)のみにてNP群で有意な疼痛閾値の低下した。ストレス負荷(RS)の行動評価は、機械的刺激 (von Frey法)を用いた。RS負荷ありNP群では、RS負荷なしNP群とS群と比較して有意に疼痛閾値の低下が持続した。さらに、マイクロダイアリシス法による脳内疼痛関連物質の定量をドパミン放出量の測定を比較した。RS負荷ありNP群では、疼痛刺激後の側坐核からのドパミン放出が低下していることが判明した。ストレス負荷により、脳機能の低下が示唆されることから、腹側皮蓋野と側坐核でのドパミン作動系細胞とオピオイド受容体の発現変化を評価することを継続必要がある。
|