研究課題/領域番号 |
19K09562
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
小野寺 勇太 近畿大学, 大学病院, 助手 (30510911)
|
研究分担者 |
寺村 岳士 近畿大学, 大学病院, 講師 (40460901)
竹原 俊幸 近畿大学, 大学病院, 助教 (60580561)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 間葉系幹細胞 / Tak1 / Hippo Pathway / 細胞増殖 / 抗ストレス / 細胞移植 |
研究実績の概要 |
間葉系幹細胞(MSC)は現在の再生医療における中心的な細胞材料の一つである。良好な臨床効果が複数報告されているが、MSCの幹細胞性維持機構はほとんど分かっていない。我々はMAP3K の1つでTgfβシグナルを伝達するTgfβ-activated kinase(Tak1)を欠くMSCが殆ど増殖出来ないという新しい知見を得た。本研究ではTak1とHippo pathwayとの連関を中心にMSCの増殖制御機構に迫り、Tak1阻害による静止期同期を応用した新たな移植用細胞調整法の可能性を検討する。 Tak1は、皮膚や造血幹細胞、肝細胞、神経堤細胞の維持に必須で、Tak1阻害が初期胚や多能性幹細胞の未分化性を上昇させること、筋衛星細胞の自己複製に必須であること等の報告がある。 先行研究から、MSC / マウスへのTak1阻害は●分化能力に影響せず、●細胞周期の停止、抗ストレス遺伝子等の発現が上昇、●解糖系代謝に傾倒し、●骨髄内MSCの細胞数および有意な体重減少が生じるが投与中止後は回復する(Tak1阻害は不可逆的である)ことが明らかとなっている。 これらの結果を踏まえ、細胞増殖や器官サイズの制御を担うHippo Pathwayの重要な因子であるYap1 / Tazとの関係を明らかにする事を試みた。Tak1がYap1 / Tazと結合することで核内移行し、細胞増殖を促進している知見を得た。また、Tak1阻害によりストレス耐性が亢進していることからマウス髄腔内細胞移植を実施し、移植時の課題である細胞死や生着数改善に寄与するか検討した。Tak1阻害細胞は移植直後において有意に生存数が多く、幹細胞性を保持し、術後一か月後においても生着細胞が多く観察された。 以上の結果は「Stem cells」に掲載された(doi: 10.1002/stem.3083.)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請では、「Tak1とHippo pathwayとの連関を中心にMSCの増殖制御機構に迫るとともに、Tak1阻害がもたらす静止期同期を応用した新しい移植用細胞調整法の可能性を検討する。」としていた。初年度ではあるものの、Tak1と細胞増殖や器官サイズの制御を担うYap1 / Tazが核内で相互作用することで細胞増殖を制御していること、Tak1の結合が外れるとYap1 / Tazは分解が促進されることが証明された。また、 Tak1の活性化を抑制したMSCは静止期特有の性質である抗ストレス性を示す。細胞移植先の環境は、損傷や週齢・年齢によって様々なROSおよび炎症性サイトカインが存在し、MSCの幹細胞性を維持するには不都合なストレス因子となる。Tak1の活性化を抑制した細胞の特性を活かし、移植効率の改善を目的にマウス髄腔内に移植を行った。Tak1阻害を行った細胞は未処理の細胞に比べて有意に生存しており、幹細胞性も維持していることが確認された。これまでの成果を本年度中に論文投稿出来たことは大変順調に進行したと言える。以上の成果は「Stem cells」(doi: 10.1002/stem.3083.)に掲載された。 しかし、トランスジェニックマウスを用いた発生学的解析や、メチル化DNA免疫沈降-次世代シーケンス(MeDIPseq)によるエピジェネティック修飾変化のゲノムワイドな観察、代謝解析、Tak1の結合ドメインを含む相互作用解析など実施予定であった項目も残っており、来年度の解決すべき課題として取り組みたい。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、トランスジェニックマウスを用いた発生学的解析や、メチル化DNA免疫沈降-次世代シーケンス(MeDIPseq)によるエピジェネティック修飾変化のゲノムワイドな観察、代謝解析、Tak1の結合ドメインを含む相互作用解析などの問題を解決し、幹細胞におけるTak1の有する詳細な機能を解明して行きたいと考えている。 また、Tak1の活性化抑制が増殖や抗ストレス機能に影響を与えたことから、老化細胞、老齢マウスへのアンチエイジング効果への応用も考えている。老齢マウスにおけるMSCは静止期状態の細胞が少なく、FACS解析において不均一な細胞集団を形成する事が分かっている。体内におおいては加齢と共に慢性的な微炎症状態も観察されており、Tak1抑制による幹細胞制御がもたらす効果を検討したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度には時間と予算の多くを論文投稿に注力した。次年度以降は、詳細な解析を実施して行く予定であり、多くの分析を実施するためその費用として計上している.当初の予定通り消耗品として使用する。
|