研究課題
令和2年度は視床下部ホルモンのバゾプレッシン(AVP)及び副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)に着目し、変形性膝関節症(OA)モデルラットにおける視床下部-下垂体-副腎(HPA)系の変化を評価した。OAモデルラットの視索上核(SON)、室傍核(PVN)及び下垂体前葉(AP)を含む凍結切片を作成し、in-situ hybridization法を用いてSON及びPVNおけるAVP hnRNA、PVNにおけるCRH mRNA、そしてAPにおけるPOMC mRNAの発現を測定した。さらに、血性AVP及びコルチコステロン(CORT)濃度を測定した。その結果、OA群では、SON及びPVNにおけるAVP hnRNAの発現、APにおけるPOMC mRNAの発現ならびに血性AVP、CORT濃度が有意に高値だった。一方、PVNにおけるCRH mRNAの発現は有意に低値を示した。続いて、緑色蛍光タンパク(eGFP)をAVP遺伝子に融合させたAVP-eGFPトランスジェニック(TG)ラットのOAモデルを作成し、同様にSON及びPVNにおけるAVP-eGFP輝度を測定した。その結果、OA群では、eGFP輝度が有意に高値だった。この結果は、国際誌であるJournal of Neuroendocrinologyに掲載された。モデルは異なるが、赤色蛍光タンパク(mRFP1)をOXT遺伝子に融合させたOXT-mRFP1 TGラットを用いて、関節リウマチの動物モデルを作成し、OXTニューロンに対して、電気生理学的解析を行った。その結果、視床下部PVNにおけるOXTニューロンはグルタミン酸のシナプス前放出が増加しており、さらに内因性OXTによる抑制性のフィードバックシステムが存在し、そのシグナル伝達にNOSが関与していることを明らかにした。この結果は国際誌であるMolecular Painに掲載された。
3: やや遅れている
令和2年度は、変形性膝関節症モデル、神経障害性疼痛モデル作成、そして関節炎モデルでの電気生理学的実験を行った。現在、OXT-mRFP1 TGラットを用いて神経障害性疼痛(NP)モデルを作成し、痛覚閾値が低下していることを確認している。処置後14日に灌流固定した脳SON及びPVNにおけるOXT-mRFP1輝度を測定したところ、NPモデルで対照群と比較し有意に高値であり、第5腰椎レベルの脊髄後角におけるOXT-mRFP1陽性顆粒も有意に高値であることを確認している。しかし、COVID-19による緊急事態宣言のため、研究室への立ち入りが制限され、当初の実験計画より若干遅れ、実験予定であったOXTニューロンの可塑性変化を捉える実験までは至っていない。
次年度においては、変形性膝関節症モデル、神経障害性疼痛モデルを作成し電気生理学的実験を行い、OXTニューロンの可塑性を評価する予定である。さらにOXT投与、OXT阻害薬投与による疼痛閾値の変化を観察する。本研究の成果は、日本生理学会、日本整形外科学会などの国内学会及び国際学会に発表し、国際専門誌に英文論文として発表する予定である。
COVID-19による緊急事態宣言のため、研究室への立ち入りが制限され、当初の実験計画より若干遅れ、予定使用額を完全に使用することができなかった。次年度にOXTニューロンに対する電気生理学的実験に前年度繰越金を使用する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件)
Journal of Neuroendocrinology
巻: 32 ページ: 1-15
10.1111/jne.12892.
Molecular Pain
巻: 16 ページ: 1-15
10.1177/1744806920943334.