令和3年度はOXT-mRFP1トランスジェニック(Tg)ラットを用いて神経障害性疼痛(NP)モデルを作成し、OXTの発現動態を観察した。処置前、処置後7日および14日後の機械刺激に対する痛覚閾値を、対照群を偽手術群とし、評価した。処置後7日および14日後にNP群では偽手術群と比較し、痛覚閾値が有意に低下した。また、視床下部の視索上核(SON)および室傍核(PVN)OXT-mRFP1陽性ニューロンの蛍光輝度を測定し、第5腰椎(L5)脊髄後角におけるOXT mRFP1陽性顆粒数を計数した。NP群は対照群と比較し、SONおよびPVNにおけるOXT mRFP1の赤色蛍光輝度が有意に高値であり、L5レベルの脊髄後角におけるOXT-mRFP1陽性顆粒も有意に増加した。以上よりNPモデルにおいて、オキシトシンの発現が増加することが示唆された。 また、雄性8週齢のOXT-mRFP1 Tgラットを用いて、難治性慢性疼痛と知られる線維筋痛症(FM)モデルを作成し、電気生理学的実験を行なった。レセルピンを皮下投与し、FMモデルを作成した。痛覚過敏および鬱様行動を呈したことを確認するために、皮下注射終了6日後にvon Frey testによる機械刺激に対する痛覚閾値および強制水泳試験における不動時間を評価した。その結果FM群では、機械刺激に対する痛覚閾値が有意に低下し、強制水泳試験における不動時間の有意な増加を認め、OXT-mRFP1 Tg ラットにおいてFM様症状が模倣できていることを確認した。上記と同様の方法にて、FMモデルを作成し、ホールセルパッチクランプ法を用いて内因性OXTニューロンの電気生理学的解析も行なった。内因性OXTニューロンにおける興奮性シナプス後電流(EPSC)がFM群で低下することを確認し、OXTニューロンの活動性の低下がFMの病態に関与する可能性が示唆された。
|