関節軟骨は巨大な無血管組織であり、滑膜から分泌される関節液を介して酸素や栄養が供給されるため、低酸素環境に置かれている。我々はこれまでの検討にて、酸素濃度は正常関節軟骨の表面では高いが深層では広範囲で低く抑えられていること、低酸素下でのみ安定化する転写因子HIF-1alphaは深層で強発現し、軟骨に保護的に作用すること、比較的高い酸素濃度下でも安定のHIF-2alphaは表層に発現し、関節の潤滑性維持を担っている可能性があることを突き止めたことから、本研究を計画した。本研究ではこれらの知見を厳密かつ総合的に検証すべく、関節軟骨の表層特異的、深層特異的なCreマウスを用いて2つのHIFのそれぞれの部位での役割を解析するとともに、各層での転写標的をChIPシーケンスなどを駆使して解析し、酸素濃度勾配が2つのHIFを介して関節軟骨を維持する機構を解析した。最終年度はHIFの転写標的をRNAシーケンシング、ChIPシーケンシングによって網羅的に解析を行った。市販されているHIF-2alphaに対する抗体でChIPシーケンシングに堪えうるものはなかったため、HIF-2alphaにFLAGタグをつけたベクターを過剰発現する形で実施した。現在バイオインフォマティクス解析を進めている段階である。また関節液の解析はマウス、ラットとも困難であり、酸素分圧は測定できなかったが、代替案として酸素インジケーターを用いた評価を実施した。仮説通り、HIF-1alphaはNF-kappaBの抑制を介してHIF-2alphaを抑制しており、発現においても相反する傾向を示した。
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