研究課題
異所性骨化とは本来骨組織が存在しない部位に発生した骨化を意味し、その発生因子として外傷、熱傷、神経損傷、頭部損傷などがある。臨床的に外傷に伴う異所性石灰化・骨化は稀ではなく、股関節や肘関節の近傍に多く、一度異所性骨化を発症すると関節可動性を大きく損ない、その後のADLに大きく影響する。異所性骨化はそれ自体が外傷や術後のADL制限の大きな原因の一つであることに加え、その病態は進行性骨化性線維異形成症(FOP)や可動域制限だけでなく神経障害も惹起しうる脊柱靱帯骨化症(黄色靱帯骨化症や後縦靱帯骨化症など)に関連することから、本研究では、まず異所性骨化モデルマウス、脊柱靱帯骨化モデルマウスの作成を行っていく。先に異所性石灰化を起こすABCC6変異マウスにて、クロドロン酸を用いてマクロファージを抑制することで、石灰化の吸収を抑制したところ、異所性石灰化が異所性骨化へと移行することが確認された。また、線溶系酵素であるプラスミノーゲンノックアウトマウスに筋損傷を与えると、術後1-2週のレントゲンにて、異所性石灰化が高頻度に生じることが分かった。また、そのまま経過を見た場合、石灰化は自然と吸収されていくことが多いことがわかった。しかしクロドロン酸を用いてマクロファージを抑制することで、石灰化の吸収を抑制したところ、術後4週のレントゲン、組織像にて遺残した異所性石灰化が異所性骨化へと移行することが確認された。さらにプラスミノーゲンノックアウトマウスの尾骨間をつなぐ靱帯に鋭的に小外傷を作成することで術後2-4週のレントゲンにて靱帯骨化様の変化を起こすことを確認した。今後、これらのモデルマウスを用いて、異所性骨化のメカニズムや治療の可能性を検討していく。
2: おおむね順調に進展している
上記のプラスミノーゲンノックアウトマウスに加えて、背部皮膚の広範囲熱傷をおこし、同時にCTX(cardiotoxin)による下腿腓腹筋損傷を加えると障害された筋肉内で異所性石灰化が発生することを確認している。また同様に石灰化吸収を抑止することで、異所性骨化に移行させられることを確認している。これら異所性骨化モデル、靱帯骨化モデルの作成は順調であるが、今後の課題はこれら異所性石灰化から骨化へ移行する機序を解明すること、また骨化をいかに制御していくかである。
異所性骨化の機序:プラスミノーゲン欠損に伴う異所性石灰化・骨化の機序として我々は①異所性石灰化(dystrophic calcification)、②マクロファージによる貪食(regression)、③骨化の3つのステップに分けて考えている。ABCC6欠損マウスでは心筋障害後にミトコンドリア内から石灰化(HA沈着)が始まるという報告があることから、本研究においても、横紋筋における石灰化を電子顕微鏡にて観察することによりその起源を特定する。②またマクロファージ機能の調節による石灰化吸収と骨化の発生の関係を検証する③骨化に移行する過程での、内軟骨性骨化の役割を組織学的に検証する。さらに今後の方向性としては、これらのモデルマウスにおける骨化を抑制させることで治療の可能性を模索することである。NSAIDs・ビスフォスフォネートなどの一般的に骨化を抑制させ得る薬剤や、もしくはPAI1阻害剤などプラスミン機能をSpesificに亢進させられるような薬剤を用いて、骨化の抑制効果を検証していく。
予定していた実験も終わったため。
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