研究実績の概要 |
近年、上肢先天異常の発症に関する分子生物学・遺伝学アプローチが進歩し、胎生期に形態形成遺伝子群(Shh, Bmp4, Fgf8, Hox, p63)が関節・骨の形成分化に重要な働きをしていることが明らかになった。しかしこれらの先天異常に次いで頻度の高い先天性橈尺骨癒合症に対して全ゲノム網羅的アプローチ(全エクソン解析)を用いた報告は大変少なく、その原因遺伝子は不明であった。 本事業では、全エクソン解析により先天性橈尺骨癒合症の候補遺伝子としてSMPDL3Aを同定した。SMPDL3A(Sphingomyelin Phosphodiesterase Acid Like 3A)はアミノ酸レベルの相同性がヒトとマウスで79%、ヒトとゼブラフィッシュで54%と種を超えて保存性が高い遺伝子である。つまSMPDL3Aはヒトの生命現象に重要な分子といえる。しかしながら、SMPDL3A遺伝子と骨格に関する過去の報告はない。これまでに我々は、in situ hybridization法により、ゼブラフィッシュ胚および幼魚、稚魚に おいて、胸ひれ(ヒト四肢に相当する器官)を中心に頭部~顔面部において特異的な発現を確認している。またSMPDL3A遺伝子改変ゼブラフィッシュを解析したと ころ、骨格発生・分化に重要なbone morphogenetic protein (BMP:骨形成タンパク質)の制御効果を示すという知見を見出した。さらに病的変異を含むSMPDL3A 遺伝子はBMPシグナルを制御しないという知見、およびSMPDL3Aは古典的Wntを制御するという知見を得た。以上より、SMPDL3Aは骨格の形態形成に関連した遺伝子の1つである可能性が高いといえる。
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