研究課題/領域番号 |
19K09573
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三島 健一 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (40646519)
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研究分担者 |
鬼頭 浩史 名古屋大学, 医学部, 招へい教員 (40291174)
松下 雅樹 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座助教 (60721115)
長田 侃 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (80815324)
神谷 庸成 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (50845542)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ペルテス病 / ランソプラゾール / 虚血性骨壊死 / ドラッグリポジショニング / 圧潰 / 骨形成 / 骨吸収 / 尾部懸垂 |
研究実績の概要 |
今年度はマウス大腿骨顆部虚血性骨壊死モデルに対するランソプラゾール単独の効果を調べた。栄養血管の凝固焼灼による虚血誘導後、急速に脆弱化する骨梁がメカニカルストレスによって圧潰させることを防ぐため、壊死モデル作製後すぐに尾部懸垂の処置を開始し、虚血肢である後肢になるべく荷重が加わらないようにした。免荷を徹底するため、ランソプラゾールの投与は強制経口ではなく、給餌皿に粉末飼料とランソプラゾール原末の混餌飼料を用意し、自由摂餌とした。給餌皿には前肢のみが乗るように位置を適宜調整した。飲水も瓶からは尾部懸垂されたマウスでは困難であったため、トランスポートアガーを置いて自由摂水を可能とした。週に2回、マウスの体重や食べ残した混餌の重さを測定し、4mg/kg/日のランソプラゾール投与量となるように、混餌内のランソプラゾールの重量%を随時調整した。混餌によるランソプラゾールの投与は、壊死モデル作製から3週経過後に開始し3週間行った。術後6週時点でマウスを屠殺し、大腿骨遠位と脛骨近位を含む膝関節を回収し、micro-CTによる画像解析を行った。その結果、顆部の海綿骨構造解析では、ランソプラゾールの投与によって骨密度(BV/TV, BMD)、骨梁数(Tb.N)や骨梁間隔(Tb.Sp)は減少したが、骨梁幅(Tb.Th)や顆部の圧壊率はコントロールと比べて有意差はなかった。ランソプラゾールには比較的低濃度では破骨細胞の分化が促進されることが細胞実験によって分かっているため、自由摂餌では強制投与よりも血中濃度が低くなり、骨形成ではなく骨吸収のオフラベル効果が顕在化したと考えられた。一方で顆部の圧壊率に両群間で有意差がなかったことから、尾部懸垂による免荷には成功したと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の最終的な目標は、虚血性骨壊死という難治性の病態を免荷や包み込みといった受動的な治療ではなく、ドラッグリポジショニングによる既存薬の薬物治療によって能動的に治療していくことである。そのためには骨壊死後の生理的な骨再生の過程をそこに関与する細胞群をタイムリーにコントロールすることで賦活化する必要がある。そこで単剤ではなく、複数の薬剤をタイムリーに併用することで最終目標である骨端の圧潰予防につなげたいと考えている。壊死誘導後に発生する一連の反応は炎症、骨吸収、そして骨形成の順であるが、虚血誘導後約3週から始まる骨形成の促進効果はランソプラゾール、好中球やマクロファージの遊走といった虚血誘導後早期の有害な炎症反応の抑制効果はToll-Like Receptor-4阻害薬エリトラン、そして虚血誘導後約3週までに活発化する骨吸収の抑制効果は骨吸収阻害薬ビスフォスフォネートの投与によって行う。初年度である今年はランソプラゾール単独の効果を調べる実験を計画したが、早期に圧潰が生じることで発生する実験間のばらつきを少なくするため、尾部懸垂による患肢の完全免荷処置も加えて行った。しかし海綿骨の骨量がコントロールに比べて減少する結果となり、骨形成促進効果を実証することができなかった。この原因として、自由摂餌によってランソプラゾールの血中濃度が想定よりも低くなり、骨吸収が活性化されてしまったことや尾部懸垂によってさらに破骨細胞分化が活性化されてしまったことが考えられた。他の2剤との併用による効果検証ができていないことから、やや遅れているとの進捗状況とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は不溶性のランソプラゾールを使用したが、我々の検討では水溶性のランソプラゾールであっても細胞実験では、不溶性製剤と同じ濃度域で骨芽細胞分化の促進作用があることが分かっている。さらに局所投与によるランソプラゾールの有効性を検討した別の動物実験では、水溶性ランソプラゾールによる短時間の刺激であっても、局所の骨形成は促進されることが分かっている。今年度の結果から、自由摂餌では骨壊死部のランソプラゾールの血中濃度はおそらく骨形成促進効果を発揮するほどの濃度には上昇せず、かえって低濃度域で発揮される骨吸収促進効果が顕在化されてしまうと考えられた。したがって次年度からは市販されている水溶性の点滴製剤の使用に切り換えることにした。また低濃度域での骨吸収促進効果を顕在化させないため、投与回数も連日ではなく副甲状腺ホルモン製剤と同様、週2~3回といった間欠投与の方が望ましいと思われた。虚血誘導後直ちに発生する好中球やマクロファージの遊走といった急性炎症の遷延化を改善するため、Toll-Like Receptor-4阻害薬エリトランの全身投与を検討しているが、骨代謝を司る細胞を使った実験や実際の骨壊死モデルへの全身投与によってその抗炎症作用を検討した先行研究がないため、ランソプラゾールとの併用実験の前に単剤での検討が必要と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度実施した実験は動物実験のみであり、実験に要した費用は主にマウスの購入費用であった。実験結果の解析に必要な機器はすでに学内にあり、それ以上の支出が発生しなかったため、次年度使用額が生じた。画像解析によって水溶性ランソプラゾールの有効性が認められた場合には、外注による組織標本の作製と解析が必要となるため、次年度使用額を充てる予定にしている。また動物実験にエリトランを使用するにあたって原末の購入費にも充てる予定である。
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