研究課題/領域番号 |
19K09574
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
辻井 雅也 三重大学, 医学部附属病院, 講師 (40444442)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | デュピュイトラン拘縮 / マイクロリボ核酸 / 筋線維芽細胞 / 線維化 |
研究実績の概要 |
デュピュイトラン拘縮(DD)は手掌腱膜の肥厚と短縮により手指屈曲位を呈する原因不明の疾患である。治療は肥厚した腱膜(デュピュイトラン拘縮索)の外科的切除か、コラゲナーゼ(collagenase clostridium histolyticum:CCH)注射による酵素溶解療法がある。しかしいずれの治療法でも、比較的高い再発率が報告されており、実際にCCH注射5年で47%の再発が報告され、再発の克服はDD治療の次の課題である。 根治のためには病態に即した治療を確立したいが、DDでは再発機序も病態機序も不明である。その中で特殊な線維芽細胞である筋線維芽細胞(MF)は病態の主因と考えられている。MFは細胞内アクチン線維に富む特殊な線維芽細胞で、平滑筋細胞と線維芽細胞の両者の特徴をもち、強い収縮力を発生し、これにより手指屈曲位に陥ると考えられている。そのため細胞レベルで線維芽細胞からMFへの分化を抑制できれば、再発や病態進行の抑止に対して新しい治療法となりうる。 またMFは拘縮索の中で結節部に存在するが、その起源は束部にも認めると考えている。その理由として手術では結節部を含めて切除するため、再発には切除腱膜の断端にある線維芽細胞の活性と分化が関連することは十分に考えられるためである。実際に当科の先行実験においても束部由来の細胞に機械的刺激を加えるとMF分化が促進された。 そのMF分化における遺伝子調節にmicro RNA (miRNA)の関与を考え、miRNA array解析をDD拘縮索の結節部と束部、また正常コントロールの3群で行った。その結果、発現に2倍以上の差があり、発現が少ないものはmiR-204の1遺伝子のみで、発現が高いものには単独で線維化疾患に関与するmir-21が含まれていた。今回の研究ではMF分化の病態機序を治療への応用を意識して進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はDupuytren拘縮(DD)細胞を用いた実験が中心で、切除標本のmir-21の局在評価も開始した。DD細胞は手術で切除した拘縮索より結節部から3mm大の部分と、束部では1cm長の部位を切り出して、酵素処理により単離した。当研究室では6株(第3継代)を冷凍保存しており、そのうち3株を用いて実験を行った。まず蛍光免疫染色で筋線維芽細胞(MF)の発現を検討し、結節部由来細胞では全細胞の11.3%に、束部由来細胞では4.6%でα-SMA陽性細胞を認めた。またwestern blottingでもα-SMA発現は結節部由来細胞では著明に高く、束部に比して9.7倍の発現量であった。 次に多くの臓器で線維化促進が示されているトロンビンの効果を検討した。実験は結節部と束部由来細胞でトロンビン1U/ml添加の有無にて比較した。Western blottingではα-SMA発現は結節部ではトロンビンの有無で差はなかったが、束部由来細胞ではトロンビン添加で3.0倍の増大を認めた。細胞増殖能は両細胞ともトロンビン添加によりわずかな増大であった。またscratch assayではトロンビン添加により束部由来細胞では1.5倍、結節部由来細胞で1.3倍の遊走能増大を認めた。さらにROS産生もトロンビン添加で有意に増加し、トロンビンがMF分化を促進し、線維化を進行する可能性が示唆された。 また切除標本を用いてmiR-21のin situ hybridizationを開始した。1標本のみだが、miR-21発現は細胞質に認め、結節部では94.2%の細胞が陽性で、束部では2.1%のみであった。免疫染色では細胞形態が線維芽細胞と異なるものでも、α-SMA発現のないものは多く、これらはMFの前駆細胞の可能性もある。今回、結節部のほとんどの細胞にmiR-21が発現していたことは興味深く、実験を重ねていく。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は切除標本によるin situ hybridization(HIS)の継続から行う予定である。昨年度は、当初はnegative controlでも陽性細胞が認められるなど、手技の確立に時間を要した。現在は安定した成果が得られており、5標本を目標にmiR-21の局在を解析する。またマイクロRNAは抑制的に作用するため、アレイ解析において結節部での低発現のものに病的意義の可能性があり、2倍以上の低発現であったmiR-204もIHSによる局在評価を行う予定である。また評価方法が問題であるが、mir-21発現とα-SMA発現の部位が異なる印象があり、この点に関しても評価したい。 またin vitroではmir-21のantagomir(拮抗遺伝子)を購入済で、筋線維芽細胞(MF)分化の効果を検討するが二つの問題がある。一つはMFへの分化促進である。トロンビンは束部のMF分化と線維化病態の進行効果が示されたが、結節部での促進作用は高くなかった。そこで線維化の主役であるTGF-βを用いることを計画している。そのためTGF-βのDD細胞への影響を検討する必要がある。もう一つがantagomirの細胞導入効率で、mir-21発現をPCR法で検討する予定である。しかしマイクロRNAでは標準的な内在性コントロール遺伝子がなく、RNU6で補正する予定であるが、経験がないために手技の確立に時間を要することを予想している。他の評価項目は昨年度行ったトロンビンの効果検討と同じ方法で行い、結節部由来細胞と束部由来細胞を用いてα-SMA発現をwestern blottingにて、細胞増殖能はMTS assayで、遊走能をscratch assayで、線維化病態の進行に重要なROS産生をDCF-DA assayで行う予定である。
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