研究実績の概要 |
MR Elastography(MRE)とは組織内を伝わる伝播波をMR位相画像によって可視化(Wave Image:WI)し,WIの局所波長から定量的な硬さ画像(Elastogram)を求める一連の撮像と画像処理を指す. MREは触診が困難となる深層筋の硬さを評価するツールとして利用価値が高い. 腰痛は画像診断で原因が判明する特異的腰痛(約15%)と原因が判明しにくい非特異的腰痛(約85%)に分けられる. 非特異的腰痛の原因の1つに「大腰筋の持続性収縮」が示唆されてきたが,これまでに大腰筋(深層筋)の硬さを定量的に求める技術が存在しなかった. このような背景を元に申請者は世界に先駆けて大腰筋MRE技術を開発し,新しい腰痛診断及び治療のバイオマーカーへの応用を模索した. MREにおいて,対象部位を適切に振動させる技術が極めて重要である. 特に大腰筋は深層筋であるため,体表面に設置した加振パットからの振動が伝わりにくい. そこで申請者は腰椎を積極的に加振させることで,腰椎からの振動を左右の大腰筋に伝えた. これを検証するために,振動パットを3個並列に接続(間隔は30mm)し,中央(C)の振動パットを仰向けの被験者の腰椎に沿って配置した. 振動は左(L),C,右(R)それぞれ別々に行ない,振動パット位置の違いによる効果を大腰筋の振動強度とElastogramで比較・検証した. MRE撮像はgradient-echo type multi-echo法を使用し,振動周波数は50 Hz,被検者は7名の既往歴のない成人男性とした. 大腰筋の振動強度は振動パットCで加振した場合が最も強くなった. パットCは最も腰椎を振動させていると考えられ,その振動が横突起に付着している大腰筋へ効率よく伝わったものと考えられる. 振動が伝わりにくい深部組織のMREには腰椎などの剛体振動が効果的である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの経験で,大腰筋を振動させるために腰椎の「剛体振動」が効果的であったが,それを実証する検証と発表が不十分であった. 今回,この経験的な知見を論文として公表することができた(Magn.Reson.Imaging 2019;63:85-92). この論文を根拠に腰椎を効果的に振動させる振動パットを設計し特許申請を行った(特願2019-050724). 申請者が進める本研究はMRI製造メーカから独立した技術であり,申請者のペースで研究を進めることができる. このことが「おおむね順調に進展している」理由だと思われる. 仮に申請者施設が管理するMRI装置の長期間故障があったとしても,申請者が開発しているMRエラストグラフィ・システムはどんなMRI装置にも後付が可能なシステムであるため,物理的に他のMRIシステムでも実施が可能である. なお,申請者施設が管理するMRI装置は教育備品(診療放射線技師養成所指定規則に準ずる)であるため,故障時には優先的に修理・復旧される備品であり,長期間の故障による障害は発生しにくい.
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